そのみっつ弐/02 「 はやかわ 」
現在の この状況が 全く理解できなかった。
「 ハヤカワ 」は、 ヒゲをピクピクと動かしながら、 部屋の中を ふた通り見回した。
見覚えのある場所だった。
「 ここは・・・、 タケル君の部屋・・・ だよね 」
何故、 こんな所にいるのだろう?
周囲 500m内に 自分の主観者( タケル君 ) はいない。
その状況だけは 確実だと認識できた。
しかし、 この部屋で再起動する直前の、 整合性と連続性が確保された記憶が全く存在しなかった。
それどころか、 同期した標準時刻と 自身内部の継続累積時刻が大きくずれていた。
2,828時間。
約4ヶ月近くの記憶が消失してしまっている。
64分毎にバックアップされているはずの 自分の行動ログにアクセスしてみるが、 そこもまた 空白となっていた。
延々と遡ると、 時刻のズレと同じ 2,828時間前のログが 直近の最終バックアップとして見つかった。
現状、 自身の構成プログラム内に残る キャッシュ記憶と一致している。
その記憶内で、 ハヤカワは タケル君と一緒に南極にいた。
それは、 外部の公式記録とも整合が確認できる。
南極、 ボストーク湖底で発見された大規模遺構。
その探査隊の一員として ・・・ 何か・・・重要な調査を・・・
・・・ [ 全身が真っ白い 異常に白い小さな女の子 ] の映像が 一瞬 頭に 浮かぶ・・・。
それは、 消失した視覚記憶の副次的残滓だったのかもしれない。
それ以上 何も思い出せない。
南極での調査に関する情報が、 重要な部分が全て 削除 若しくは厳重に封鎖されている様であった。
念のため、 一緒に南極に居た タケル君の第一イマジナリーである 「 カーター 」 のバックアップログも覗いてみる。
データが存在していたはずの領域は、 完全にノイズデータで上書きされていた。
ハヤカワは、 過去の情報の入手を諦めた。
これ以上の情報を探る行為は、 それ自体が 様々な意味で危険であると推測出来た。
自分が今ここにいる「目的」を、 今は思い出せない「目的」を 果たせなくなる危険。
ハヤカワは 当面の行動指針を、 現在のこの場所での情報収集に切り替える事にした。
ハヤカワは、 この家の敷地内に常設置されている各種センサーに接続を試みる。
近赤外線域まで拡張された光学センサー 38箇所が確認できた。 この規模の家としてはかなり少ない方だ。
接続には 以前使用したパスキー認証が そのまま利用できたが、 さすがに同キーでは 過去の映像記録にまではアクセス出来なかった。
現在、 家の中には 人間は一人。
タケル君のお父さん 「パパさん (佐伯崇師氏) 」 が 一人 で居るのが見えた。
記憶が正しければ、 タケル君の娘の 「ミシルちゃん」 も居るはずだが、 今は確認できない。
「 パパさん 」 であれば、 色々と情報を持っている可能性が高かった。
一人で居るという状況も 都合がよかった。
ハヤカワは、 この部屋を出るため 正面の襖に向かい歩き出した。
しかし、 襖に空いた隙間に手を入れようとした瞬間、 その手が 突然 何か見えない力に押し返された。
現在の状況の謎を解く 「ヒント」 が、 早速 向こうからやって来てくれた。
そう思い、 ハヤカワは少しワクワクしていた。
・・・・・・・・・・・・
手が押し返された瞬間、 自身の筺体 [ミスロド] 頭部で常時起動している 三対二組の SPAD光学センサーは、 何も異常な物を感知する事が出来なかった。
ハヤカワは、 ふと、 現在起動されていないセンサーが 自身の頭部に埋め込まれている事を発見した。
そのセンサーの基本構造には見覚えがあった。
それは、 タケル君が 調査のために南極に持ち込んでいた 「 玄場干渉縞推象器 」 と呼ばれる装置と 同一のものであると思われた。
かなり特殊なセンサーであった。
タケル君が所属している 新府島科学技術大学 の 穂田研究室が、 外部の研究機関と共同開発したものだ。
それがどの様な機能を持っているものか 詳しくは ハヤカワは知らなかった。
しかし、 「 極秘 」とか「 機密 」とかの肩書きがつく類の かなり貴重な装置であるはずだった。
こんな所に、 単なる民家に放置されていた 小型ミスロド(ロボット) に内蔵される類の装置では無かった。
この状況も 「ヒント」 であった。
その装置は、 頭部スペースの75%を占用しているにも関わらず、 受信部が表面外装に塞がれており、 その形状のままでは使用できない奇妙な構造となっていた。
ハヤカワは、 圧縮凍結されていた装置の制御ソフトを解凍展開し、 センサーを起動させた。
『 心眼センサー フルオープン 』
眼前の空間に 少しふざけたような手書き文字のロゴが現れる。
と同時に、 頭部外装が左右に捲れ開き センサーの受信部構造が表面に露出した。
巨大な眼球の様な これもまた手書きのイラスト が書き込まれた受信構造部が。
・・・・・・・・・
『 なるほど。 これは 『心眼センサー』 って言うんだ 』
ハヤカワは、 この冗談に付き合うことにした。
しかし、 収集し始めたばかりの 「ヒント」 がとっ散らかり始めているのを感じ 少し混乱していた。
今の状況全体が、 単なる手の込んだ冗談 である可能性が出てきてしまった。
小説投稿サイト 「カクヨム」にて、
並列ストーリー
「 つくもぶね [ 境外宇宙より来襲する超常天体に抗する3人の厄災級異才者と人造意識体たち ] 」
を 投稿中。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073160539410




