そのよっつ弍/02「リチ 」
そこから ほぼ 15分後 、ミシルとモクが神社に着くと、 シマちゃん とラッテは 道の境に立つ古い大木に隠れるようにして 神社の境内を覗き見ていた。
「 どうしたの? 」
「 さっきまで 変な男の子がそこにいたんだよ。
妙なお面のようなものを頭につけて、 ゴソゴソと地面に 何かを描いてたんだ 」
シマちゃんは、 何か興奮した様な口ぶりだった。
『 ・・・ あぁ、 やっぱり リチ君だ・・・ 』
[ 妙なお面 ] というのは、 少し前 ミシルがリチ君にあげたものだった。
初めて リチ君がミシルの家に来た時、何か興味有りそうに 部屋の壁に掛かっていた あれ を見ていたから、
現代風にアレンジされた 少女を模した小さな白い能面。
お爺ちゃんにも言わずに、 なんともなく あげてしまった物だった。
ミシルは、 シマちゃんに「変な男の子」と言われて、 リチ君の事を話し出すタイミングを外してしまった。
モクも知らん振りをしている。
その場の雰囲気に合わせる様に、 シマちゃんたちと一緒になって ミシルも 同じ木の影からそちらを覗いてみた。
「 誰もいないね 」
「 ついさっきまで居たんだよ。 奥の社の建物に入って行っちゃった 」
シマちゃんの左肩に座り 足をブラつかせているラッテも 少し妙な表情をしながら補足した。
「 お祭りの時以外は あそこは鍵が掛かってる筈なんだけどね。 普通に入って行っちゃったのよ 」
ミシルは、 ふと 空を見上げる。
先程まで浮かんでいた虹色の雲は 見えなくなっていた。
「 何か見えるの? キョロ 」
シマちゃんは、 ミシルがたまに「見える」という事を 何となく 知っていた。
[ キョロ ] の名前の由来のキョロキョロ する癖も、 他人が見えない何かが「見えている」からだ と。
「 よく分からない。 とりあえず あっちに行ってみようか 」
「 何か ワクワクするねっ 」
シマちゃんは 何だか盛り上がっていたが、 少し微妙な立ち位置になってしまったミシルは ため息をついていた。
少し困った顔をしながら、ミシルはフォローして欲しそうに モクの方を振り返る。
モクはミシルを無視して、 ラッテと こそこそと情報交換を行なっていた。
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イマジナリーは、イマジナリー同士で 直接データ交換を行う事が 原則禁止されている。
ただし「 こっそりと会話 」する事は、 パートナーの許容する範囲で認められている。
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シマちゃんが 「何か描いていた」 と言っていた境内の広場まで、 みんなで ゆっくりと歩いていく。
昔 農村歌舞伎の舞台が建っていた敷地は、 二十年前の火災発生以降 単なる土の広場になっている。
広場の隅には、 焼け跡の地中から見つかった 名前も失われた旧い客神の石仏 が祀られていた。
前期(春季) の「集学」で行われた 地元の文化を調査する というカリキュラムの中で、 ミシル達が神社のネギさんに直接聞いた話であったため よく覚えていた。
その地面に、 道具も何もない状態で創ることは困難である と思われる程に規則正しい 深さと幅の溝が、 地面に複雑な模様を刻んでいた。
直径5m位のエリアに 三角形と丸形を組み合わせたような奇妙な幾何学的模様が、 件の石仏の丁度正面に出来上がっていた。
多分、 昨日までは無かったはずの模様が、 昔からあったかの様にそこに存在していた。
「 これって・・・ 何か解る? 」
「 何だろう? 解らない。 本当に今 リチ君が描いてたの? 」
「 そうだよ。あの人が さっきまでここで描いてた・・・って、 『リチ君』ってだれ? 」
「 いやっ いや・・・。 それより・・・社の・・・建物の方 見てみよっ 」
あからさまに誤魔化そうとしているミシルに、 何かを勝手に察したシマちゃんは、 それ以上は聞くことはしなかった。
その時、 ラッテが、何か訳あり顔で シマちゃんに目配せしてきた事もあった。
それに、 非常に面白そうな話になることが確実だったので、後で ゆっくりと 楽しみたいと考えたのだった。
シマちゃんは、 彼に。キョロが「リチ君」と呼んだ男の子に、 非常に興味を惹かれていた。
鍵は掛かっていた。
社の建物の入り口の 旧い木製の引き戸には、 外側から 前時代的な巨大な南京錠が掛けられていた。
「 この入り口から入って行ったの? 」
「 そうとしか見えなかったし、 ここしか入り口ないよね 」
ミシルとシマちゃんは、 顔を寄せ合うように その古びた引き戸についた 小さな格子窓から 社の中を覗き込んだ。
暗くてよく見えない。
ミシルは、 いつも掛けている愛用の 視覚補助デバイス [メガネ] を 夜間モードに調整し、再度中を見た。
島の夜は かなり暗い処も多いから と ミシルの父親が、 引越し前に メガネに追加してくれた簡易な暗視機能であった。
ぼんやりと確認できる様になった 社の建物の内部、 古く黒ずんだ木の床に穴が空いているのが見えた。
昔の資料などの物置と化している社の 老化した木の床の中央付近に、 直径一メートル程の穴が空いている。
その存在に全く違和感が感じられない 縁も滑らかな自然な感じの 穴だった。
最初から、 この建物が造られた時に 一緒にその穴も作られていた と言われても信じられる様な状態であった。
神社のネギさんから、あの床の上に座って 神社の歴史についての話を聞いたのはつい半年前のことだ。
シマちゃんも その時一緒だったが、 あんな穴なんかは 絶対に無かった。
ミシルは、 中の観察を続けながら その視覚情報をシマちゃんにも見えるように 共有の拡張空間に表示させた。
「 前に あんな穴なんか無かったよね? 」
内を覗き込みながら 背後のシマちゃんに話しかけたが 返事が帰ってこない。
ふと ミシルは振り返った。
シマちゃんが居ない。
何処にも見えない。
小説投稿サイト 「カクヨム」にて、
並列ストーリー
「 つくもぶね [ 境外宇宙より来襲する超常天体に抗する3人の厄災級異才者と人造意識体たち ] 」
を 投稿中。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073160539410




