そのよっつ参/01「 システムの異態 と 日常の端 」
「 えっ! 」
「 モクっ シマちゃんどこっ? 」
ミシルは、 モクに声をかけながら 周囲を幾度も見回す。
モクからの返事がない。
シマちゃんどころか、 モクも、 ラッテも いつの間にか居なくなっていた。
神社の境内で いつの間にか。 ミシルは ただ一人で 佇んでいた。
全身が、 一瞬 鳥肌に包まれた。
ミシルは 冷静になって、モク のシステム動作状況を確認するため、 アクティビティ画面を表示させようとした。
想定していなかった視界位置に、 見た事のないエラー表示が現れる。
しかも その表示は、 感覚拡張システムによって 視床後部に投影される いつもの直接感覚情報では無かった。
視覚補助デバイス [メガネ] の表膜上に表示され、 自らの目を介して認識しなければならない 間接感覚情報であった。
メガネ上に情報表示が行われる事は滅多に無い。 結構な異常状況であった。
さらに、 表示されている文字が日本語ではなかった。
見た事のない文字で構成された不可解な言葉によって、 謎の文章が表示されていた。
その文字の色や 全体のニュアンスから、 それがエラー表示自体に発生したエラーなのだと ミシルは考えた。
原因は不明であったが、 世界の実質的な基底情報ネットワークである『スペーシアルネット』と、 個々の感覚拡張システム との間で発生した 通信・接続障害である可能性が高かった。
そのせいで、「モク」や「ラッテ」のような イマジナリー(情報オブジェクト) が表示されなくなったのだと思われた。
−− ※ −− −− −− −− −− −− −−
本来 「イマジナリー」とは、 スペーシアルネットの上に分散構築された ダイナミッククラウド で動作するAIプログラムである。
そこで、 算築され 創り出された 感覚情報 が、 個々の感覚拡張システムに 空間座標と共に送付され表示されている。
−− −− −− −− −− −− −− ※ −−
しかし 今まで、 ミシルは このような事態を経験したことが無かったし、 もし そのような障害が発生したのであれば、 それは かなり重篤な状況で 世界規模の問題に発展する『 事件 』であるはずであった、 が しかし、 絶対にあり得ない事ではなかった。
ただし、 その理屈では 「シマちゃん」までもが見えなくなった、 居なくなってしまった という説明は出来ない。
『 ・・・今までそこに居た シマちゃんって、 実体 じゃ無かった・・・ って ? ・・・ 』
今まで、 ミシルが 直接会って 会話をしていた、 そう思っていた友達は、 実は 単なる 感覚情報 (オブジェクト) だった?
しかし、 それはあり得なかった。
感覚拡張システムにおける 感覚情報 (オブジェクト) 表示については、 非常に根幹的な 基本的 絶愛的ルールが存在する。
『 現実との見分けのつかない 感覚情報 を 拡張空間上に表示してはならない 』
国内・国際的な法律・条約等においても、 これは かなり厳密に禁止規定されているルールであり、 その規定はハード的な強制仕様ともなっている。
これに反した動作を行う システム構成ナノマシン が存在するとすれば、 「研究用」か「軍用」くらいしか無いはずであった。
・・・・・・
つまり、 現在の状況は ミシルには理解不可能であるということだった。
『 3分間 考えても解らない事は、それ以上一人で考えても無駄である 』 とは 父親からの雑多な教えの一つであった が。
今回 ミシルは、5分間 色々と無駄に考えた末、 この父親の教えを採用することにした。
そして、 一般的な連絡・通信についても一切不可能であることが、 その後 すぐに確認できたため、 ミシルに出来ることはただ一つ、 一人で家に帰ることだけであった。
『 ・・・モクの言う通り、最初から 家に帰って寝とけばよかったかな・・・ 』
いつもは 煩くて邪魔なだけの モクのツッコミであったが、 今はそれが聞きたかった。
ミシルは トボトボと一人で歩き出した。
・・・・・・
ふと 広場の隅を見た。
そこに祀られていた 石仏の上に、少し煤けた石仏の頭の上に、 妙なモノが立っているのが 見えた。
それは、 背の丈 30cmくらいの 猿に似た体型の 黒っぽい何かであった。
この付近では、 今でもたまに猿が出没することがあった。
しかし、 それ には 猿であれば あるはずの体毛が存在していなかった。
体毛の代わりに、 その体の表面は、無数の縄が幾重にも複雑に巻き付けられているかの様な 模様に覆われていた。
そして、 その頭部には 「 仮面 」 が、
リチ君にあげたはずの あの「 能面 」が つけられていた。
いや、 似ているが 少し違っている。
その「能面」の おもて には、 とても大きな [ 笑い ] の表情が 顕されていた。
それ は、ハッキリと ミシルの方を見つめていた。
そして、 ミシルと目が合うと ゆっくりと片手を上げ、 縄を撚り合わせた様な短太い指で ミシルの斜め後方を指差した。
ミシルは それ が指差す方向を振り返る。
その方向は、 その方角の先には、 つい先程 ミシル達が出て来たばかりの、 お爺ちゃんの家が建っていた。
そして、 まさに 家の建っている筈の、 その場所の上空には、 虹色の雲が浮かんでいた。
少し前まで、 この神社の上空に浮かんでいた 「 虹色の雲 」
それと同じようでありながら、 明らかに違っていた。
何か 妙に生々しく、 変な存在感を その雲はまとっていた。
あれは、 果たして あの物体は、 本当に雲なのだろうか。
その物体が 発している七つの色相。
その色相は同じでありながら、明度と彩度が明らかに違っていた。
先程のような、自然光の屈折が作り出した 光学的な淡い虹色ではなく、 内側から滲み出てくるような物質的な濃い虹色。
ミシルは気がついた。
『 えっ! あれって生きてる?・・・ 』
空中に浮かんだ 雲のような「生き物」が、 じっと その下の地面を、 そこにある何かを 見つめ 観察しているのだ。
よく見ると、 その雲の周囲には たくさんの小さな「鳥」のようなものが モノ が飛び交っていた。
ミシルは知らなかった。
それらは、 ひと昔前に UAP(未確認異常現象)と呼ばれていたモノの一種であった。
AD2031年に 国際専門機関によって『 不可触飛翔体 』として正式に分類・認証されたグループであり、 一部においては 非公式に『 観測者』とも呼ばれている存在であった。
そして、 それらは 地球外を主の生存域とする存在であると考えられていた。
小説投稿サイト 「カクヨム」にて、
並列ストーリー
「 つくもぶね [ 境外宇宙より来襲する超常天体に抗する3人の厄災級異才者と人造意識体たち ] 」
を 投稿中。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073160539410




