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そのみっつ参/02 「 はやかわ と おどまりさん こともりさん 」

 しかし、

 単なる冗談では無いことは 直ぐに判明した。

 これは、 かなり複雑で奇怪な冗談であった。

 その ふざけた起動演出に関わらず、 この「 心眼センサー 」の動作は本物であった。


 起動したセンサー内部が、 放出された微量の液化ヘリウムにより 動作可能領域温度の 100ミリK (ケルビン) まで一気に低下する。

 読み込んだセンサーの仕様書にれば、 一度の起動で可能な観測継続時間は 1秒にも満たないはずであった。

 センサーが捉えた「高次行列アナログデータ」が 制御ソフトでイメージ化され、 SPADによる視覚データと重ね合わされる。

 ・・・

 視界全体の色調が赤方に偏移していく。

 いや、 全体では無かった。

 前方の襖の隙間、 その向こう側の空間に 何か揺らめく高濃度の真赫の存在が居る。

 そこを中心として、 歪んだ赤いグラデーションが拡がっている。


 0.87秒後、 センサー内部温度が 動作可能限界を越える 120ミリKにまで上昇した。

 仕様上、 装置はシャットダウンするはずであった。

 しかし、 3秒後 ・ 5秒後 ・・ 17秒後 ・・・ 257秒後。

 センサー温度は既に室温レベルにまで上昇していた、 しかし 観測データは出力され続けていた。


 「 ヒントが多すぎるのもなぁ 」

 ハヤカワは、 小さく呟きながら 隙間の向こう側の赫い存在の観測を続けた。

 制御ソフトにより 推象パラメータの微調整を行い リアルタイムで最適設定値に近付けていく。

 ・・・

 視界の赤味が抑えられ、 隙間の向こうの存在が ボヤけてはいたが 何かの形を成してくる。

 二つの 「 顔 」 の様な もの が現れてきた。

 少し幼い 子供の顔であった、 その目には黒目が存在しなかった。

 その 「顔」 の下部、 口であろうと思われる部分がゆっくり動いていた。

 何かを喋っている。

 二つの口は、 交互に 何か言葉を発していた。


 「 そ とに でち ゃ だ め 」

  「 だ め 」

 「 たけ るち ゃん はど こ? 」

  「 ど こに いるの 」

 「 あな た は だぁ れ? 」

  「 だ れなの ? 」

 「 お なかの な かの そ れはな に ? 」

  「 な ぁに ? 」

 「 それ は だ め! 」

  「 だ め! だめ! 」

 『 だ め! だめ! だメ! ダめ! ダメ!! ダメ!! ダメ!!! ダメ!!! だメ!!!ダメダ! メダメ ダメ!ダメダ メだめ ダメダメ ダメ ・ダメダ ・・・ ・・・ダ ・・・・・・ 』


 目を見開き ハヤカワを凝視して、 延々と 「 ダメ 」 と 口を動かし続ける 二つ(・・) の子供。


 ハヤカワは、 再度 右腕を伸ばし、 その顔に触れようと 試みた。

 その瞬間。 ハヤカワの周囲の空間から、 無数の腕が現れた。

 数百はあろうかと思われる まっしろい 腕。

 正面の ボンヤリと見える子供の顔とは違い、 細かな部分まではっきりと見えた。

 腕の先端、 全ての手には六本の指が生えていた。

 視界を埋め尽くすかの様な指の群集体。

 それが、 一斉に 正面の二つの顔に掴みかかった。


 ハヤカワは、 本来の目的も忘れて、 夢中でこの現象を観察していた。

 「 すごい! っすごい! 」

 思わず声が出る。


 同時に、 自身の筺体腹部の歪みセンサーが、 異常な数値を報告してきた。

 腹部が膨張していた。

 腹部の表面外装の下にある 「ナニカ」 が、 その体積を急激に増大させていた。

 その 「ナニカ」 から音が漏れ出していた。

 心眼センサーが その音を捉えていた。

 本来、 心眼センサーが感知したデータは、 映像データにしか変換されない筈であった。

 そういう仕組みである筈であった。

 しかし、 ハヤカワには ナニカが発する音が聞こえていた。

 いや、 声が聞こえていた。

 それは 笑い声 だった。

 「 はっ ははは はは はっはは はははは はっ ははは ははっ はは はははははは・・・・ 」

 かすれた。 老人の。 たぶん女性の。

 シワガレタ。

 ワライゴエ。


 眼前に伸びた無数の手に掴まれた二つの顔は、 なぜか笑顔であった。

 数百もの手に覆われて 見える筈のない顔は、 笑顔を浮かべていた。

 心眼センサーの変換映像は、 その様子を伝えてきていた。

 そして、

 その二つの顔の口が大きく開いた。

 あり得ないほど大きく開いた。

 と同時に、 顔を覆っていた手の量が減り始めた。

  喰べていた。

 二つの顔の 大きく開いた口は、 群がる手を指を みるみると平らげていった。

 

 手の数が少なくなるにつれ、 腹の中から漏れていた声が次第に変化していった。

 その声は急速に若返っていった。

 十数秒後には、 それは完全に赤ん坊の鳴き声になっていた。

  ・・・ ふぎゃぁっ はんぎゃぁっ ふんぎゃっ はぁんぎゃっ ふぁんぎゃっ ・・・・・・


 最初は 夢中で眼前の現象観察を続けていたハヤカワも、 あまりにも混沌としてきたこの状況に少し呆れ始めていた。

 『 いやー ・・・ むちゃくちゃだっ 』

 センサー制御ソフトの 推象アルゴリズムの癖が強すぎるのだ。

 後で、 データの再解析をしなければ、 このままでは全く意味を成さず、 役に立たない。


 ハヤカワは、 心眼センサー を強制終了させた。

 させようとした。

 止まらない。

 それどころか、 センサーから出力される情報密度は どんどん上がり続ける。

 赤ん坊の鳴き声は ますますの大きくなる。

 手を平らげ尽くした二つの顔は、 ボンヤリとしていたその輪郭がハッキリとし、 体まで見え始める。

 ハヤカワは 危険を感じ、 自身の情報認識プログラムから 全ての外部情報を切り離す。

 切り離しには成功したはずであった。

 しかし、 異常な状況情報は 一切変わらず ハヤカワの認識プログラム内部に侵入し続けてくる。

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 気がつくと いつの間にか時間が飛んでいた。

 15分程 記憶に空白ができていた。

 再び 再起動したらしい。

 

 目の前の襖が大きく開いていた。

 そこには 「パパさん」 と、 見知らぬ男の子が立っていた。

小説投稿サイト 「カクヨム」にて、

並列ストーリー


「 つくもぶね [ 境外宇宙より来襲する超常天体に抗する3人の厄災級異才者と人造意識体たち ] 」


を 投稿中。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073160539410

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