番外編⑤ ~ くだをまく 管理職 ~
ちょっと思いついたので、ささっと書いた短めです。
宇野よ、もう、そのぐらいにしといたほうがいいんじゃないか?
私は田尾洋子、気象予報会社のサラリーウーマンだ。同期出世頭の宇野と二人で飲みに来ている。彼女から誘われたのだ。
「これが飲まずにいられる?もお!やってらんないわよ!今日はとことん付き合ってもらうわよ!」
ああ。まあ、付き合うからさ。でも、さっきからそればっかりだね。お酒も十分入ったんだし、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?何があったの?
「・・・いいわね、あなたは。グローバルニュース専門チャンネルでの天気専門番組の制作なんて、これ以上ない仕事よ。羨ましいったらないわ!」
まあね。毎日が充実して楽しいよ。悪いけど今のこのポジション(特別運用チームリーダ)は代わってはやれないよ?
「分かってるわよ!・・・まったく!!」
・・・ははあん。さては、宇野、部長に何か言われたな?
「・・・察しがいいわね・・・いい?これはまだ経営層しか知らない話だから。実は、常務が体を壊して、治療に専念することになったの」
・・・なるほど。玉突きが起きるね?
「そうよ。部長が常務執行役員に、私が部長だそうよ。私はね、気象に関わる仕事がしたくてこの会社に入ったの!ああ!私はもうお終いよ!!自分自身ではもう何も考えないのよ!毎日毎日、人が考えた話ばかり聞いて、判を押すか難癖をつける、それが私の仕事なのよ!面白くもなんともない!!」
ご愁傷さまだね。だけど適材適所。誰かがやらなくちゃいけないからね。実際、君以外いないだろう。覚悟を決めろよ。
「私はね、下にいるときには理想の上役ってのがあったの」
ほう、聞かせていただこうではないか。次期部長の理想の上役ってのはどんなものだい?
「立場が高いほど、あまり細かいことに気にしちゃだめなのよ。できるだけ俯瞰の視点で物事を見る、それが上役の仕事よ」
だね。その通りだと思うよ。君なら大丈夫だろう。
「・・・残念だけど、私は向いていないわ。細かいことが気になって仕方がない性格なのよ?絶対、皆に嫌われるわ。正直言うけど、貴女のほうが絶対向いているわ!」
いやいやいや。私には特別運用チームを率いるという仕事があるからね。君しかいないよ。残念だけど覚悟を決めるしかないね。
「・・・まあ、いいわ。でも、ひとつだけいい事があるのよ」
そうそう。そうやって前向きになれる材料を見つけることは大事だよ。で、いい事って?
「今までは特別運用チームと運用第1チームは横並びの関係だったから、残念ながら雪ちゃんの仕事と私は無関係だったけど、部長になると予報士派遣事業はすべて私の職掌になるのよ。だからあなたのチームの仕事とも無関係ではないわ。GNNの天気予報専門番組制作は部の最重要課題だから、今後はあなたの報告を楽しみにしてるわ」
そうだね。君も部長になれば無関係とはいえないね。あ!・・・そうか。そうだね。いいかもしれないね。
「何よ?突然!どうかしたの?」
今度のGNNとの打ち合わせ、新任部長として会議に出てみないか?
「どうしたの?突然。あなた、会議の人数を増やすのは嫌いだったじゃない?」
それは意味のない人間を入れる場合だよ。宇野には大事な役割があるのさ。
「何?役割って?」
”宇野” だよ! ”宇野”!
*****
実はね、いま制作中の気象予報専門番組は、最終的には早朝、昼間、夜の1日3回放送を目指しているけど、開始当初は昼間1回からスタートする予定なんだ。その放送では、雪緒君にメインの予報士としてキャスターをお願いする予定なんだけど、もう一人、番組の進行をサポートし、視聴者の視点で聞き役に回るキャスターが必要になるんだ。
「普通の予報番組なら局アナね。でも、気象予報専門番組ならそちらも予報士でもいいんじゃない?うちから派遣したら?」
私もそれを最初に提案したんだけど、GNN側との議論の結果、当社からは派遣せず、元局アナだったフリーのアナウンサーとGNNが契約してその方にお願いすることになったんだ。
「どうして?専門家のほうがいいんじゃない?」
彼らと議論した結果だよ。生放送の場合、例えば地震時とかは緊急地震速報を基に対処する必要性が生じるので、二人のうち一人は局アナレベルのアナウンス能力が必要だろうってことになったんだ。
「・・・たしかに。予報士二人では心配ね」
でね、その新しいGNNの契約アナウンサーの女性が先日の会議から加わるようになったんだけど、これがすごいんだよ。
「何がすごいの?」
名前だよ。その新しいアナウンサーさん、”掛布” さんって言う名字の女性なんだ。
*****
「確かに珍しい苗字ね。でも、それがそんなにすごいの?」
うちの会社のメンバーは、私と木俣と立浪の3人なんだ。特別な意味はないんだけどさ、この3人の名前って、響きというか雰囲気が、なんだかとても地味というか、職人的な感じがしない?
「田尾、木俣、立浪・・・確かに。理由は分からないけど、すごく玄人好みというか、見ていてつまらない感じがするわね」
つまらないって・・・まあいいけど。それに対して、打ち合わせの相手方であるGNNの出席者の名前がすごく迫力があるんだ。自ら出席する社長の ”バース” さん、アナウンサーの ”掛布” さんと社員の ”岡田” さんだよ?
「バース、掛布、岡田・・・本当ね。なんだかよく分からないけど、ものすごい破壊力を感じる響きね。一気に勝負を決めてしまいそうな・・・勝てる気がしないわね」
そうなんだよ。会議をやってても、その3人が出てくるようになって、どうにも相手ペースになっちゃうんだよね。
「・・・それは考えすぎじゃないの?・・・それと私がどう関係するの?」
君の名前だよ。”宇野”って、何かこうインパクトを与えそうな名前だろ?
「ええ?・・・そう?・・・全然分からないけど」
とりあえず今度の会議、新任部長なんだから挨拶も兼ねて出席してみてよ。なんとなくだけど、宇野がいれば名前負けしないような気がするんだ。
「・・・まあ、別にいいけど」
*****
それから1週間後、宇野が我々の部長になってから最初のGNNとの打ち合わせ。新任部長としての挨拶を兼ね彼女も出席した。
結論から言うと、宇野は、バースさんに押される我々を助けようと頑張ってくれた。残念ながら、彼女との議論はほとんどバースさんの全勝だった。宇野も必死に挽回しようと頑張っているのだが、どうにも努力すればするほど、空回りしてしまう感じだ。結局、宇野が出席しても、GNN相手の打ち合わせが厳しいものであることに変わりがなかった。
次からはなるべく雪緒君にも出てもらおうかな。彼がいると、あの外国人社長、途端に話が分かるようになるからな。
”篠塚” か・・・・
これまた、地味だな。
軽い・・・・すいません。(てへペロ)
次は成人後の彼を前にした、同僚達の人間模様です。私の好きな眼鏡っ子の木俣女史が頑張ってくれるはずです。




