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番外編④ ~ 分析好きなSE  その1~

いやあ、もうネタギレでして・・・








私は都内に住む中堅IT企業で働くしがないサラリーウーマンだ。仕事はSEシステムエンジニア


名前は 湯上谷ゆがみだにひろ子 という。お天気キャスターの雪ちゃん、こと篠塚雪緒くんをこよなく愛する独身貴族だ。彼のデビュー以降、楽しくてしょうがない毎日を送らせてもらっている。誰にも気兼することなく、大好きな雪ちゃんの画像と音声に毎朝・毎晩、好きなだけ浸れることを考えると、気楽なIT土方生活も悪くないと思い始めている。


私は今、大手ベンダーの下請けとして、画像診断技術を利用し人の健康管理を担うシステムの開発計画に携わっている。現在はβ版の開発段階であり、本番システムの運開まで数年かかる比較的大きなプロジェクトだ。このような長期のプロジェクトに関わると、短い納期に追われることがなくなり、精神的にも落ち着いて日々を過ごすことができる。しかも、発注元のシステムベンダーの社屋に派遣の形で出勤しており、勤務時間も派遣先に合わせている。これがなんと<フレックス>なのだ!つまり、毎朝、遅刻の心配なく雪ちゃんを堪能できるのだ。ああ、この仕事が永遠に続けばよいのに・・・


「ねえ、ガミやん、今朝の放送見た?」


私に声をかけた彼女は 香川伸子かがわのぶこ 、ぽっちゃりした体形が特徴の同じく独身サラリーウーマンであり、派遣先で所属するチームの同僚だ。私がどちらかと言えばシステム屋で、まさしくIT土方と呼ぶにふさわしい専門である一方、彼女は画像診断技術を専門とした、どちらかというとITエンジニアと呼ばれるうらやましい立場の女性だ。


ただし、ちょっとだけ、オタクの趣味があるらしく、派遣先の会社では同僚になじめていないらしい。私とは、<お天気キャスター雪ちゃんLove>が共通の趣味と分かって以降、雪ちゃんマニア友達として仲良くさせてもらっている。ちなみに ”ガミやん” というのは彼女が私につけた愛称だ。


「見たよ!デカちゃん!今日はたまげたよ。雪ちゃん、自宅派って、想像すると興奮が止まらなくって」

(彼女の愛称は ”デカちゃん” 、お弁当箱がデカいのだ)


「だよね!私も!朝から興奮覚ますのが大変で!だって、私たちほぼ毎朝、雪ちゃんの顔色を見てるわけじゃん?少なくとも月に1回は採精後の翌日とかなわけでしょ?もうそれを思うとヤバイよね!」


今日の放送で、雪ちゃんは成人男性義務に協力することに加え、自宅採精になりそうだと告白したのだ。

この衝撃の告白は、お気に入りの雪ちゃんファンサイトの一つ、”雪ちゃん予報答え合わせ”ページでもすでに炎上に近いぐらい盛り上がっている。気の早いファンの中には、22ちゃんに彼の採精日予報スレまで立ち上げる始末だ。気持ちは分かる。頑張ってくれたまえ!同志たちよ。わかったらぜひ、教えてほしい。


「明日から雪ちゃんの肌のツヤとか見ちゃうよね?どうしよう。やけに肌のツヤがピカピカの時とか、もう会社に来たくなくなっちゃうわ!」


「そうそう!肌ツヤ、要チェック!注目しなきゃ!ピカピカの時はもう、休暇取っちゃおうか?」


雪ちゃんマニア友達との朝の会話は楽しい。こんなに楽しい雰囲気で仕事を始められるなんて、私は幸せ者だ。



*****



私たちは今、β版システムが置かれている開発室にいる。

入室にはカードキーが必要で、開発チームのメンバーしか入ることができない。私とデカちゃんは、出社後はオフィスの自席PCでメールや会議予定などを確認するが、その後は一日の大半をこの部屋で過ごす。

今日も出社後、スケジュールとメールを確認後、この部屋に移動してきた。ここ数日、開発中システムのいくつかの懸案事項を順次、解決し、来月に予定している開発側のテスト開始に向けた細かい調整をしているところだ。


開発中のシステムは、カメラで撮影した人の顔の画像(動画もしくは静止画)を処理し、その人の今の顔色などから、発熱状況から脈拍まで健康状態を把握しようというものだ。顔色の色情報を、R(赤)、G(緑)、B(青)の基本色素レベルに分解し、その波長の光の強度の変化から脈拍やその日の健康状態まで判断できる。私は撮影機器のハードを含めたシステム全体を、デカちゃんは主に画像認識部分を担当している。


作業に着手する前、少し面白いことを思いつく。ためしに登録されたシステムメッセージと、顔色判定の設定情報を少しだけ修正し、デカちゃんに被験者になってもらう。


「デカちゃん、面白いこと考えた。ちょっと試してみて」「いいよ」


このシステムを利用するには、事前に被験者登録をして、一定の頻度で利用し、データベースに顔色情報を登録しておく必要がある。私たち開発メンバーは皆、被験者登録されており、デカちゃんはすぐに顔認識で個人が特定され、今の健康状態の診断結果が表示される。


<開発部、香川さん。現在のお肌のテカテカ度は普段の1.8倍です。超健康です。もしかして出勤前、いけないことしちゃいました?>


「「ぷっ!くくく!」」


結果を見て二人でにやける。これは面白い。思った通りだ。


「ちょっとガミやん、やめてよ!なにこのメッセージ!どうやったの?」


「普段の平均値より、顔の白色(RGBすべて)の輝度が高い場合にこのメッセージを出すようにしたの。でも、結構使えるね?当たったでしょう?」


「そりゃあ、今朝の雪ちゃんの告白もあったし、確かにあたってるけど、じゃあガミやんもやって見せてよ!」「いいよ!」


さっそく私もカメラの前に座る。結果はすぐに出る。


<開発部、湯上谷さん。現在のお肌のテカテカ度は普段の2.6倍です。健康すぎます。出勤前にエッチなことは控えるようにしましょう>


「「ぎゃはははは!」」


腹が痛い。このシステム、的確すぎる。私たちは腹を抱えてしばらく笑いあう。

さて、リラックスしたところで今日一日の作業を開始だ。デカちゃんはメッセージとテカテカ度判定を追加したお遊び版をバージョン管理システムに残しておくことを提案してくる。


「ガミやん、これ健康管理に使えなくもないと思うから、一応、バージョン管理システムに入れて、タグ付けとこうか?」


「え?これ、残しておく?いいよ。分かった」


私は、修正したソースを登録し、タグ付けしておく。こうしておけば、いつでもこのバージョンに戻すことができる。バージョン管理システムに対する操作は、ほとんど私とデカちゃんしかしないから、誰にもわからないだろう。


「よし!じゃあバージョンを昨日の状態に戻して、そこから続き、はじめようか」


「そうだね。まずは、昨日修正したバージョンで不具合状況を確認しようか」


今の仕事はやりがいもあり、同僚にも恵まれて本当に楽しい。1日があっという間だ。

家に帰れば、今日の雪ちゃんの告白ビデオを堪能できる。


ああ、私は幸せだ・・・



*****



翌朝、例によって自席PCでスケジュールを確認後、開発室に移動するとデカちゃんが意味ありげな笑顔で提案してくる。


「ねえ、ガミやん。昨日のお遊び版で、被験者画像を撮影画像じゃなくてファイル読み込みに変更できる?」


「え?できるけど、被験者の顔が一定の大きさで映り込んでないと難しいよ?」


「それは大丈夫。私の方で調整してきた。バックグラウンド(背景)を利用して明度や彩度も大体同じくらいに調整済みだから、揺らぎもそんなにないと思う」


彼女は新しいブルーレイを取り出し、サーバーのディスク装置に入れている。私は端末から操作し、ブルーレイをマウントして中身を確認する。静止画ファイルが大量に記録されている。1枚をダブルクリック、拡大された顔画像を見て驚く。


「!!これ!!・・・雪ちゃん?・・・どうしたの?これ?」


「昨夜は大変だったよ!私の雪ちゃん動画コレクションの最近2か月分から、画像を切り出し、それぞれ色調まで調整して来たのよ。2時間ぐらいしか寝てないもん」


そこまでやる?私は彼女の執念に驚きつつ、すぐにその意図を理解する。まずは新規被験者の登録とデータベースの設定だ。最初の10日分を初期データベースとして初期平均値を作成し、翌日以降から診断とデータベース追加を始める。



<開発部 雪ちゃんさん。現在のお肌のテカテカ度は普段の1.3倍です。健康です。>

<開発部 雪ちゃんさん。現在のお肌のテカテカ度は普段の0.8倍です。健康です。>

<開発部 雪ちゃんさん。現在のお肌のテカテカ度は普段の1.2倍です。健康です。>



さすがに最初だけは揺らぎがあるけど、どの日も普段通りだ。雪ちゃんは出演時に軽くメークしてるらしいし、このシステムで何かを検出するのは難しいかな?診断はさらに進む。



<開発部 雪ちゃんさん。現在のお肌のテカテカ度は普段の1.0倍です。健康です。>

<開発部 雪ちゃんさん。現在のお肌のテカテカ度は普段の1.8倍です。超健康です。もしかして出勤前、いけないことしちゃいました?>

<開発部 雪ちゃんさん。現在のお肌のテカテカ度は普段の1.1倍です。健康です。>



!え?ちょっと待った!今、なんか出たよ? 横で見ていたデカちゃんも結果に飛びつく。


「ちょっと!ガミやん!出た!!出たよ?それいつ?」


私はすぐに該当する画像のファイル名を確認する。日付は先週の月曜日のものだ。


「先週の月曜日だって・・・月曜日は、週末の休み明けだからかな?」


「え?・・・でも、その前の週の月曜日は出なかったよね?」


そうか・・・もしかしてこれって本当に・・・

すると、デカちゃんが急に冷静になり、今後の方針を提案してくる。


「とりあえず、あたし今夜も家で過去の動画コレクションからの画像切り出すから、もう少しデータとってみようか?」


「そうだね。まだちょっとデータが少ないよね。とりあえず今日はこの辺にしておいて、仕事しようか?」


私たちはバージョンを仕事用に戻し業務を再開する。今日、家に帰ったら、先週の月曜日の動画を見直してみよう。これはとんでもない世紀の大発見かもしれない。こういう時に焦るのは禁物だ。



*****



その日の帰宅後。今、私は先週の月曜日の雪ちゃんの動画を見直しているところだ。これは・・・言われてみると、この日の雪ちゃんの額や頬は、いつも以上にツルピカに見える。確実に前日の夜、何かあったと疑いたくなるレベルだ。・・・ちょっと!雪ちゃん!・・・エロすぎるよ・・・・その笑顔・・・


・・・・・


就寝前のベッドの中。

ヤルこともやったし、今日はもう寝ることにする。でも、これ、22ちゃんねるの人たちが知ったら、驚くだろうなあ・・・私たちだけの秘密にするの、ちょっともったいない気もする。同志諸君にも、教えてあげたいな。


その日はそんなことを考えながら幸せな気分で眠りについた。

この時の私は、この先、自分があんな恐怖体験に巻き込まれることになろうとは、思いもよらなかった。











続きます。

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