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第五話 襲撃

王都の門を抜け、二人は街道を歩いていた。


荷馬車には村へ届ける薬品が積まれている。


御者の老人は穏やかに笑った。


「最近はゴブリンが出るって聞いてな。」


「若いのに頼もしい護衛だ。」


ルナは胸を張る。


「任せて!」


「ちゃんと守るから!」


リオンも静かに頷いた。


「無事に届けます。」


街道はしばらく穏やかだった。


しかし森へ入った瞬間だった。


ガサガサッ。


茂みが激しく揺れる。


「ギギッ!」


「ギャギャッ!」


緑色の小柄な魔物が五体飛び出してきた。


「ゴブリン!」


ルナがすぐに前へ出る。


「私が援護する!」


彼女は右手を掲げた。


淡い青白い光が集まり、一瞬で美しい弓が形を成す。


続けて左手に光の矢が生まれた。


「いけっ!」


ヒュンッ!


放たれた矢は一直線に飛び、一体の額を正確に貫く。


「ギャッ!」


ゴブリンはその場に倒れた。


「すごい……。」


リオンは思わず呟く。


(魔法で武器を作るのか。)


(こんな戦い方があるなんて。)


その間にも二体が飛び掛かってくる。


リオンは剣を抜いた。


一閃。


二閃。


ゴブリンの剣を弾き、そのまま首元へ刃を走らせる。


二体同時に崩れ落ちた。


「えっ……。」


今度はルナが目を丸くする。


(速い……。)


(全然見えなかった。)


残る二体も左右から襲い掛かる。


「リオン!」


「右!」


ルナの声と同時に光の矢が飛ぶ。


一体の肩を射抜き、動きを止める。


そこへリオンが踏み込み、一刀で仕留めた。


最後の一体は逃げ出そうとしたが、ルナの二本目の矢が背中を貫いた。


静寂が戻る。


ルナは弓を消しながら笑った。


「やるじゃん!」


リオンも微笑む。


「ルナこそ。」


「すごい魔法だね。」


「えへへ。」


「ありがとう。」


「でもリオンの剣、びっくりした。」


「魔法なしであんなに強い人、初めて見た。」


二人は自然と笑い合った。


短い戦いだったが、お互いの実力は十分に伝わっていた。


「いい相方になれそうだね。」


「そうだね。」


荷馬車は再び走り出した。


しかし村へ近付くにつれ、異様な匂いが漂ってきた。


焦げ臭い。


そして鉄のような血の匂い。


御者が青ざめる。


「……おかしい。」


村が見えた瞬間、全員の足が止まった。


家屋は燃え、柵は壊されている。


荷物が散乱し、地面には血痕が広がっていた。


「そんな……。」


ルナの表情が消える。


その時だった。


「ブモォォォッ!!」


巨大な咆哮が村中に響いた。


家屋の陰から、三メートル近い巨体が姿を現す。


灰色の肌。


巨大な棍棒。


オークだった。


その周囲には十数体のゴブリンが村人を追い回している。


「まだ生きてる人がいる!」


ルナが叫ぶ。


「助けよう!」


「うん!」


二人は同時に駆け出した。


リオンはゴブリンの群れへ飛び込む。


次々と剣が閃き、魔物が倒れていく。


ルナも光の弓を生み出し、正確に矢を放つ。


逃げ惑う村人へ近付くゴブリンを、一体ずつ確実に射抜いた。


「ありがとう!」


村人たちが叫ぶ。


しかし。


ズシンッ!!


オークが地面を踏み砕きながら突進してきた。


「速っ……!」


リオンは剣で受け止める。


凄まじい衝撃。


身体が数メートル吹き飛ばされた。


(重い……!)


(グレイウルフとは比べ物にならない。)


ルナは矢を連射する。


光の矢が胸や肩へ突き刺さる。


だがオークは顔をしかめる程度だった。


「硬い……!」


オークは怒り狂い、ルナへ突進する。


「危ない!」


リオンが叫ぶ。


ルナは横へ飛ぶが間に合わない。


巨大な棍棒が脇腹を掠めた。


「きゃあっ!」


ルナの身体が吹き飛び、地面へ転がる。


「ルナ!」


彼女は苦しそうに腹を押さえる。


血が滲んでいた。


その姿を見た瞬間だった。


リオンの中で何かが切れた。


(仲間を……。)


(傷付けた。)


静かだった瞳に怒りが宿る。


足へ力を込める。


地面が砕けた。


「……っ!」


一瞬で姿が消える。


オークが目を見開く。


次の瞬間。


閃。


まるで光が走ったような一太刀。


オークの腕が宙を舞う。


「ブモォォッ!?」


さらに。


二閃。


三閃。


四閃。


誰の目にも映らない速度で剣が踊る。


最後の一太刀が首を通り抜けた。


ズドン。


巨大な身体がゆっくりと崩れ落ちる。


村は静まり返った。


ルナは呆然と呟く。


「……速すぎる。」


「今、何回斬ったの?」


リオンは静かに剣を鞘へ納めた。


剣はボロボロで今にも壊れそうだった。


「分からない。」


「夢中だったから。」


その後、残っていたゴブリンたちも二人で掃討した。


静寂が村を包む。


ルナは脇腹を押さえながら苦笑した。


「いたた……。」


「思ったよりもらっちゃったな。」


そう言うと、腰のポーチから数種類の薬草を取り出す。


葉をすり潰し、傷口へ当てて布でしっかりと固定した。


「これで応急処置は大丈夫。」


「ちゃんと治療すれば治るよ。」


リオンは安心したように息を吐く。


「……無事でよかった。」


ルナは照れくさそうに笑う。


「心配してくれた?」


「当たり前だろ。」


「仲間なんだから。」


その一言に、ルナは少し目を丸くした。


そして嬉しそうに微笑む。


「えへへ。」


「ありがと、リオン。」


その様子を見ていた村長らしき老人が深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました……。」


「あなた方が来てくれなければ、この村は全滅していたでしょう。」


その目には涙が浮かんでいた。


「本当に……ありがとうございました。」


村長は懐から革袋を取り出し、二人へ差し出す。


中には金貨が数枚と銀貨がぎっしり詰まっていた。


「これは村のみんなで集めたお礼です。」


「決して多くはありませんが、どうか受け取ってください。」


リオンは首を横に振る。


「依頼の報酬はギルドからもらえます。」


「だから。」


しかし村長は深く頭を下げた。


「命の恩人に何も返さないままでは、私たちの気が済みません。」


「どうか受け取ってください。」


ルナは小さく頷く。


「リオン。」


「これはみんなの気持ちだよ。」


リオンは少し考え、革袋を受け取った。


「……ありがとうございます。」


村人たちは安堵したように笑顔を見せた。


「オークまで出た。」


「これは俺たちだけの問題じゃない。」


ルナも真剣な表情になる。


「うん。」


「すぐにギルドへ報告しよう。」


「もっと強い魔物が近くにいるかもしれない。」


リオンは頷いた。


「急ごう。」


二人は荷馬車へ積んであった薬品を村人へ渡し、生き残った人々に後を託す。


燃え跡の残る村を振り返りながら、リオンとルナは王都への街道を駆け出した。


二人はまだ知らない。


この襲撃は、王国を揺るがす大きな異変の始まりに過ぎなかった。


王都へ戻る頃には、日はすっかり傾いていた。


ギルドへ襲撃の報告を済ませる前にリオンは先程村長から貰った革袋を握り締める。


「ルナ。」


「治療院へ行こう。」


ルナは笑って首を振る。


「大丈夫だよ。」


「薬草で何とか」


「駄目だ。」


リオンは真っ直ぐルナを見る。


「傷を庇って歩いてただろ。」


「ちゃんと治そう。」


ルナは少し驚いたあと、ふっと笑った。


「……分かった。」


二人は王都の治療院を訪れる。


代金は先程貰った金額でギリギリ足りた。


代金を払った後、白いローブを纏った治癒術師が傷口へ手をかざした。


淡い緑色の光がルナを包み込む。


傷口はみるみる塞がり、痛みも消えていく。


「これで完治です。」


治癒術師が微笑む。


「ありがとう。」


ルナは脇腹を軽く動かし、目を丸くする。


「全然痛くない!」


「やっぱり治癒魔法ってすごいね!」


リオンは安心したように息を吐く。


「金はまた稼げばいい。」


「でも仲間は代わりがいない。」


ルナは少し頬を赤く染めながら笑う。


「そういうこと、さらっと言うんだね。」


「……ありがと、リオン。」


リオンは少し照れくさそうに頭をかいた。


二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。

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