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許されざる恋なのです その2

私はリックに懸想していることに気づきました。


それと同時に心臓の拍動は時を追うごとに加速して、頬には熱が籠もってゆくのが感じ取れます。 


人間とは不思議なもので、一度気づくとそのことで頭が一杯に埋め尽くされてしまって、近くに居るはずの二人の声が遠くにあるように感じます。


カルティナが好きな本の名前は何でしたでしょう·······リックは氷まつりを楽しんでくれているでしょうか?


他のことを考えようとしてもリックの顔が思い浮かんできてしまい、二人の方を見ようとすればリックの声が頭の中を木霊します。


それはさながら蟻地獄のようで、別のことを別のことをと考えれば考えるほど深みに嵌ってゆきます。


しかし恋していることを理解しても、私になにかできるわけではありません。


私には王命で定められた婚約者がいて、その王命は反故にすることはできず、なおかつミスランティの領民が平穏無事に過ごすためには必要不可欠なものです。


お父様はあまり関わらないで済むように取り計らってくれています。ですが、王国とミスランティ辺境伯領が成立以来抱えてきた不和の種は今でも燻っています。


宮中伯さまとの婚約はそれを取り除くための婚約なのです。上手く導くことができれば、私達の周りにある不穏の種は消え去って、対立を気にせず平和に暮らすこともできるかもしれません。


その為には軽率な行動をしてミスランティの貴族達が私のために逸ることのないようにしないといけません。


私がどのような道を取らなければいけないのか······そのようなことはとうの昔に理解しています。


「姫様、リック様がいらっしゃったようです」


ルイーズの大きな声が響きます。大きな声であればこそ辛うじて私の思考に横入りしてきます。


リックが来たという報せ


心音が殊更に速くなるのを感じ、幸か不幸かリックへの恋心を改めて実感します。


つい先程までの私であれば、嬉々としてリックをお通しするように言いつけていたのでしょう。


ですが、今はそのたった数文字を口にできません。


一度会ってしまえば、今の私は容易くこの気持ちを私の外に漏らしてしまうでしょう。


この気持ちを塞いで抑え込む手段を生憎ながら持ち合わせていません。


押し寄せる心の波は私の作る薄く脆い護岸をいとも簡単に削り取って、護り通さなければならない秘密を白日のもとに晒してしまうものと思われます。


そうなればもう止められません。そうなのだと私は直感を持って確信しています。


心の奔流はいずれ内輪で隠し通せる範囲を超えていき、宮中伯さま、もしかすると王様へと伝わる可能性さえもあります。


私の取るに足りない小さな気持ちの所為でミスランティのみんなを危険に晒す訳にはいかない。


(私の本意は、みんなが平安に生きること。その為ならば私の些細な気持ちの変化で混乱を巻き起こすわけにはいきません)


······この気持ちを隠し通して、誰にも気づかれずに棺の中まで持っていくのです。


私は決意しました。決心した私は口を一文字(いちもんじ)に結んで、ルイーズに対して答えます。


「後日にしてほしいと申し付けてください」

「······承りました。リック様には気分が優れないと言っておきます」


ルイーズの離れ姿を見送ります。


私はミスランティを守るのです。その為ならば何物にでも代えてみせます。


心にその言葉を奥深くまで刻みつけました。

これで一応第一部の本編は終了となります。(修正はする予定ですし、閑話をいくつか挟みます)

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