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許されざる恋なのです その1

次回は明日の18時前に投稿します。

 儀式を終えたあとは必要最低限の社交だけを行って、早々と城の私室へと戻らせていただきました。


 宮中伯さまにご挨拶を、と思って合間を縫って労いに来てくれたリリーに言ってみたのですが、疲れをお癒しいただきますよう、と断られてしまいました。


 それほど疲れた自覚はありませんけれど、やけに強く休息するよう勧められました。私も気づいていない疲れの兆候を見取ったのかもしれません。


 なにはともあれ初めての邂逅は本日のようなお祭りの場ではなく、正式に場を整えて行うべきです。

 ミスランティ貴族達を刺激しないためにも、氷祭りの場では会わないほうが得策でしょう。


 私はありがたくリリーの厚意に縋って、ルイーズやカルティナを伴い一足早く氷祭りを離れました。


「姫様、よかったのですか?確かリック様となにかお約束なされていたようですけれど······」

「舞の感想を聞くだけですので後日でも成りますから。それに宮中伯さまの案内をしないで他の平民と話し込んでいた等と噂になれば、リックは肩身が狭く感じるでしょう。宮中伯さまも不快に思われるかもしれませんし······」


 何より王様に知れては勘気を被るやもしれません、という言葉を私はすんでのところで飲み込みます。


 ······いたずらに不安を煽るような発言は不要です。相手を困らせこそすれど喜ばせはしないのですから。


「それもそうですね。私的な場の方がお話しやすいこともありましょう」

「そういうものですか······」


 カルティナの賛同に、ルイーズも戸惑いながらも受け入れたようです。騎士は報連相を重視しますので、話しにくいということが少ないのでしょう。


 そこで私は微かな疑問を感じました。


「カルティナは最近、どこか変わりました?」

「姫様はお分かりですか?······実は以前姫様に読書を薦められてから本を読むようにしてみたのです」


 私にとってそれは青天の霹靂でございました。確かに薦めた記憶はありますけれど、あの手の行動は大抵の場合において社交辞令として受け流されてしまいがちです。


「まあ!そうでしたの。よければ詳しく教えてくださいませんか?」


 私は驚き顔を隠すよう、咄嗟に両手を口元に当てて、しかしながら驚きを強く表しました。


「カルティナ、もしよければ私からもお願いできないだろうか?私もかねてより本を読んでみようかと思ってはいるのだが······どうしても性に合わなくてな」


 カルティナもルイーズと同じように読書という行為を苦手としていました。そのカルティナの経験を糧にすることで何か糸口を掴めるのではないかと思ったのでしょう。


 カルティナも別に秘匿する情報でもありませんので、柔らかに微笑みます。どうやら了承の合図のようです。


「分かりました。お役に立てるか存じませんが、ルイーズ隊長と姫様、お二人の希望であれば喜んでお話いたしましょう」


 そうしてカルティナは自身の読書初め譚を語りました。


 要約すると、初めこそ騎士としての本能に苛まれて居たものの、お話を読んでいるうちに段々と夢中になって動かないと落ち着かないというのも鳴りを潜めたようです。


 手にしていた本が推理物と恋愛小説であったことも幸いに働いたのでしょう。その二つは小説の中でも特に夢中になりやすい部類の作品ですから。


「私はどうしてこれまで本を読んでこなかったのか、今更ながら深く後悔して、己の曾ての行動を恥じております」

「本の魅力というのはそれほどまでなのか······私も本はあまり得意にする訳では無いが、俄然興味が湧いてきた」


 やはり同じ立場だったからでしょうか。いつもは何処か乗り気では無さそうだったルイーズの真紅の瞳も、カルティナの熱意のこもった眼差しを捉え、心なしか浮き上がっているようにも見えます。


 本を好きな一人としてはどのような形であれ、興味を持ってくれるのはとても嬉しいことです。


 カルティナが本の素晴らしさについて語らい、私はそれを微笑ましく思いながら見守ります。


「なるほど。カルティナ、もしよければ君が読んでほしい本、できれば初めてでも読みやすい本を教えてくれないだろうか?」


 待ってましたと言わんばかりの早業で、ルイーズの言葉に反応するやいなや、一冊の小説を大事そうに優しく持ち出します。


「この本がお勧めです。この作者の恋愛小説は言葉遣いが細部に渡って秀麗で、読んでいると想像が働いて情景をありありと思い浮かべることができ、うっとりします」


 その後もカルティナは早口に話し続けます。

 私もそうですが、ルイーズも普段のカルティナの冷静沈着さとの違いの大きさに驚き、困惑しています。

 それと同時に、カルティナにとってその本がどれほど良いものであったのかを物語っていて、ルイーズにとっては凄く参考になると思います。


「描写の精密さ、か。例えばどのようなものがある?」

「はい。何気ない場面にも、さり気なく登場人物の胸の高鳴りや表情が変化しています。具体的には鼓動が早くなるのを感じたり頰を赤らめたり、つまり恋に備わる特徴的な行動の移ろいを捉えやすいので、私のような初心者でも充分読み取ることができます」


 カルティナの説明にルイーズは満足げに頷きました。分かりやすいということはとても魅力のようで、ルイーズはその場でカルティナに貸してもらうよう頼んでいます。


 それを他所に私は酷く動揺していました。


 カルティナの言っていたことが恋心の証左であるのならば、私は今恋をしていることになってしまうのです。


 その相手はもちろんリック、既に婚約を結んでいる私にはあってはならないことです。

カルティナは無事に本の虫への道を歩み始めました。

ルイーズも引き摺り込まれそうです。

その一方、フィリーネはついに自分の恋心に気づきました。


次回はフィリーネの葛藤です。

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