氷祭り
明日は午後七時前に投稿します。
今日は氷祭りの初日、私が舞を奉納する日です。
「リリー、宮中伯さまのこと、お願いするわね」
「お任せ下さい。お嬢様の代行の責務を万全に務めさせていただきます」
「リリーは頼もしいわね」
私はふふっと笑いました。リリーは気恥ずかしそうに少し小さくなって謙遜します。
数日前にお父様からバルデン宮中伯さまの案内を申し付けられました。
ですが、舞もあるのにそれは流石に厳しいだろうとのことで宮中伯さまの側から配慮の言葉がありました。
そう言ってくださるだけでも充分ありがたいのですが、宮中伯さまは名代としてリリーが務めることで代わりとするよう王様に上奏してくださいました。
「宮中伯さまには本当に感謝の気持ちしかありませんね」
「······そうですね」
その時、途端にリリーの表情が曇りました。一瞬でその曇りは立ち消えましたが、その一瞬の間には煮詰まった黒が浮かんでいました。
あら、どうかしたのでしょうか?
もしかするとリリーはおじい様達に近しい、婚約に対して快く思っていない側の人間なのかもしれません。
ミスランティの貴族は概して独立意識が強く、かくいう私もある時までは王国の一辺境伯領だとはあまり意識していなかったものです。
ですが、ここはミスランティ辺境伯令嬢として、失礼のないように釘を刺していたほうがよいでしょう。
貴族たるもの本音と建前は使い分けてこそですから。
「リリー、宮中伯さまに対して良くない感情を抱くミスランティの領民もいるかもしれません。ですが宮中伯さまにその意志が直接伝わることのないよう、気をつけてお守りくださいね」
「承知しました。近づく人物には細心の注意を払うように致します」
「よろしくね」
これでよろしいでしょう。あとはリリーがおかしな騒動に巻き込まれることなく、宮中伯さまと同じく平穏無事にお祭りを過ごすことを祈るばかりです。
「それでは、リリーはこの辺りで宮中伯様をお迎えに上がろうと思います。お嬢様が舞を奉納される側でお力になることはできませんが、観客席より見守っています」
「失敗しないように頑張るわね。リリーが最後まで近くに居てくれないのは心細いけれど、指導してもらった成果を発揮します。宮中伯さまを頼みました」
暫しの会話のあと、そろそろ宮中伯さまを迎える時間が迫ってきたので、リリーはそちらへと向かいました。
「姫様、私も微力ながら応援しております」
「ありがとうルイーズ、とても心強いわ」
「それでは姫様、そろそろ舞台へと向かいましょう」
ルイーズなりの励ましを受けて、私は氷祭りで最も大事にされる儀式の場へと向かいました。
***
私は今、荘厳に整えられた舞台の上、聴衆も全くの静音を発する中に舞を奉納しています。
私は立場上、大勢の前で一人だけ動くことに慣れていますし、この日のために何度も何度も練習をしてきていますので舞の型は完璧にできていると思います。
今年も領民の皆さまが平穏に暮らせるよう、祈りを籠めながらの舞ですので、祈りと動きを両立させることは難しいですが、何とか頑張っています。
私は何度も反復練習を繰り返して、以前にも同じような型をこの舞台で舞ったことがあります。
とはいえ、そう簡単に慣れるものではありません。
リックのように今回が初めての観覧の方々もいらっしゃるでしょうから、その方々にも氷祭りの素晴らしさを体感してほしいのです。
それ以前に神々に捧げる祈りの舞に慣れてしまえばいずれそれは形骸化してしまい、心の籠らない形式主義に陥ってしまいます。
そうならないためにも、私は毎度毎度緊張感を持って取り組まなければならないのです。
段々と舞の動きが流線状になり、少しの余裕が生まれてきた頃、私はリックを探します。
本当は気にしないほうが良いのですが、どうしても無性に気になってしまうのです。
しかし、探せど探せど見つかりません。
宮中伯さまとリリーは見えたのですが、やはり後ろの方に紛れてしまっているのか特徴的な髪すら私の瞳には欠片も映りません。
なにかあったのでしょうか?
私は探そうと思いましたがここからは舞の中でも特に難しい部分ですから、見回している余裕もありません。
僅かに気を落としながら舞います。
そして、
舞も終わりかけたその時、リリー達の場所から少し離れた一般用の区画から、リックの青い髪の毛が発見されました。
よかった、来てくださっていました。
私はその安心感の中、ただの一度の失敗もなく舞を奉納し終えて神への祈りに包まれる中を退場しました。
長期休載すみません。
実は以前に言っていたコンテスト用の小説なのですが、完成は間に合ったにも関わらず、書式を間違えるという凡ミスをしてしまい、まさかの期限切れになってしまいました。
ストーリーも創り込んでいて、かなり自身のある作品だっただけに、数日間執筆する気力を無くしてしまいました。
しかも、話が連載用にかなり長いものなので、今の状況からしても投稿に回すこともできないのです。
まあ、追い込まれた状況で執筆して、書き上げるという貴重な体験ができましたし、新しい作品のプロットが完成させられましたので、ある意味では良かったのかなとも思っています。
それでは、連載再開です。予定日は取り敢えずは、火曜日、木曜日、金曜日、日曜日にします。
ではまた!




