領都リコリアへ
数日後に迫った氷祭りで行う儀式の打ち合わせをするために、今日は領都へと戻ってきました。
そしてわたしは両親や主だった法衣貴族(つまり領内の大臣のようなものです)、儀式の準備を受け持つ神官達が集まる会議に参加しました。
会議の内容は日程の確認から始まって、招待する貴族の名簿の確認や当日に交通規制が敷かれる街道の範囲調整、出店予定の露店の商品の品質保証の確認と再度の承認がひととおり続けられました。
会議の内容は昨年の氷祭りの時とほとんど代わり映えしない者で、人によっては退屈するでしょう。
とはいえ、これは辺境伯領全体の品位に大きく関わるものですから、手を抜く人はここにはいません。
というわけで、いい意味での緊張感を保ったまま会議は進んでいって、そして終わりました。
***
「それではこれで会議を御仕舞いとしよう。異論のあるものはいるか?」
お父様が円卓をぐるりと見回しました。
そして誰も言いたいことがありそうな人のないのをしっかりと確認してから会議の終了を宣言すると、
「領主様、忙しい時にわざわざ時間を割いていただいてありがとうございました」
「辺境伯、お先に失礼します」
などと、口々に挨拶を述べてから退室してゆき、残ったのはわたしとミスランティ辺境伯家の人物、つまりわたしとお母様とお父様の三人だけになりました。
「改めてお久しぶりです、お父様、お母様。つつがなくお過ごしのようで何よりです」
「貴女こそ、冬風邪に罹らず元気そうで何よりです」
「あぁ久しぶりだな、フィリーネ。ディアラドからわざわざ雪の中をこちらに来させて悪かった」
お母様はいつも通り穏やかに微笑んでいましたが、お父様は晴れない顔をしています。
いつもはもっと厳めしくてキリッとした領主らしい面持ちを崩さないお父様が、身内ばかりとはいえどうかしたのでしょうか?
雪国であるミスランティの住民なら雪道を歩くことくらい慣れきったものですし、それこそ冬の戦場でも雪道を歩いた経験はあるのですけど······
「アルベール様は宮中伯様との婚約で陰険な雰囲気になっているこの城に貴女を近づけたことを申し訳なく思っておられるのですよ」
「そういうことでしたか」
わたしは咄嗟に返しました。
バルデン宮中伯様のことはよく分かりませんけど、わたしはディアラドで結構楽しく過ごしていたのです。
それなのにわたしの代わりにお父様が苦労していたことに、こちらの方が申し訳無ささえ感じます。
「むしろお父様には感謝申し上げたいくらいです」
「そうか、そう思ってくれて助かる」
お父様ははにかむように笑いました。
それにつられるようにしてわたしも笑います。
しかしお父様は急に表情を引き締めました。
「特に氷祭りの日は貴族達から挨拶を受けるだろうが、決して言質はとらせるでない」
「存じております」
おそらく言質の中身は宮中伯様との婚約に対するわたしの思いのことでしょう。
反対派も存在していることを理解しておりますが、わたしのお役目はミスランティ辺境伯領に幸福をもたらすことです。
ですから反対派が隆盛する機会を与えないように最新の注意を払わなければ犠牲者が生まれます。
それでは、役目は果たされることはないでしょう。
「硬い話はここまでだ。氷祭りは我が領最大のお祭りである。故に楽しめ」
「それもそうですね」
それからわたし達は会っていなかった間に積もっていた話に花を咲かせました。
***
話もそろそろ終わる頃合いになった頃、
「そういえば伝え忘れていたが、当日はバルデン宮中伯も参加させるようにと、王様より御達しがあったから、その日だけはリアステア城にお連れするように」
お父様が苦虫を噛み潰したような苦渋の表情で伝えました。そうとうお嫌いなようです。
「存じました。しかし、どこにいらっしゃるのでしょう?わたしはまだお会いしたことがありませんけれど······」
その瞬間、お父様が驚天しました。
わたしは事実をお伝えしただけですし、どこに住んでいらっしゃるのかも存じ上げません。
"お連れするように"と言われた以上、宮中伯様の居場所を尋ねるのは当然だと思うのですが、どうかしたのでしょうか?
「フィリーネ、其方は以前に······」
「アルベール様、この話はここまでに致しましょう?」
お母様がにっこりと穏やかなのに凄みのある表情でお父様を窘めました。疑問形ではありますが、実質命令と言っても過言ではない、そんな言葉です。
「あぁ、そうだな。取り敢えずフィリーネ、ディアラドに滞在なさっている宮中伯をお連れしなさい」
有耶無耶になったまま、お父様は当日の私の動きについての指示を行って、この会話は終わったのでした。
コンテスト用の作品の制作が佳境に入っているので、次回更新日は未定です。
できれば日曜日に1つ投稿したいですけど、できないかもしれません。次に確実に投稿するのは2月2日の木曜日だと思います。




