この気持ちを知りたいのです その2
次回は明日の18時台には投稿します。
「こんにちは。お元気そうで何よりです」
「ごきげんようリック。雪が積もっている中を来てくださってありがとうございます」
わたしはリックに微笑みを投げかけました。
リックも返すように優しい微笑みを浮かべます。
「今日も舞の稽古をなさっているのですね。今年は例年よりも難しいと聞き及んでおりましたが、とてもお上手でした」
「いえいえ、私などリリーの足元にも及びませんよ」
わたしは教えられながら、部分で区切って練習しなければ習得できませんでしたけれど、リリーは自力で他人に教えられるほどに覚えているのですから、わたしと比べるのも烏滸がましいくらいです。
「そうですか。でも、私が綺麗だと思ったのは雪の散る中に舞を踊っていらっしゃるフィリーネ様ですよ」
心臓がまた、ドキリと跳ねました。ともすれば鼓動は、舞の練習をしていたときよりも速くなっているかもしれません。
こうなるのはリックを前にする時だけ。
「氷祭りがより一層楽しみになってまいりました」
「それは、ありがとう存じます。氷祭りはとても素晴らしい儀式で、他領の人々にもぜひ楽しんでほしいですから」
少しだけ落ち着きました。
このような私に直接関連しない、別のことであれば鼓動が殊更に早くなるわけではないのです。
何が原因なのか、未だによく分かりません。
「フィリーネ様?」
「······あぁっ、すみません。ちょっと考え事があって」
リックがわたしを距離は変わらず覗き込みました。
どうやらわたしは自分の思考の殻に籠もってしまっていたようです。
「考え事ですか?······よければ私に話せることであれば、お話ください。お役に立てることがあるかもしれません」
「·······分かりました。相談に乗っていただけますか?」
不思議とちょっとだけくすぐったくはありましたが、リックとの関係において鼓動が速くなる現象が起こっているのならば、それはリックに相談してみるのもありかもしれません。
「実は·······」
わたしはリックに最近、リックと話していると鼓動が速くなる病に罹っていることを伝えました。
リックは黙々と真剣に話を聞いてくれます。
ふと視界の側に、気まずそうな表情のリリーと微笑ましそうに見守っているカルディナが映りました。
······どうかしたのでしょうか?
まあ、気にはなりますが、今はリックとの会話の最中ですから気にしないことと致しましょう。
「私も医師ではありませんので、詳しく申し上げることはできませんが、もしかするとそれは緊張というものかもしれません」
「緊張、ですか?」
リックは頷きましたが、わたしにはよく分かりません。
人と話すだけで、それも言っては悪いですけど領主や大臣のような上位の方々でもない普通の人にそこまで緊張なんてするものでしょうか?
困惑を理解したリックはわたしに説明して下さいます。
「自分で言うのは憚られるのですが、フィリーネ様は私にお祭りでの舞を楽しみにしていてほしいと言ってくださいましたでしょう?」
「はい。確かに言いました」
氷祭りはミスランティにとっては特別ですから、ここに来たばかりのリックに見てほしいと思うのは当然です。
でも、それがどうして緊張と関係するのでしょう?
「恐れ多いことですが、その誰かに見せたいとお思いになる気持ちがフィリーネ様に緊張を覚えさせたのではないかと、そう推論いたします」
「そうでしたか。なるほど合点がいきました」
言われてみればその通りです。
例えばわたしもお母様にお茶会の作法の審査を受けるときにはとても緊張しますし、他にも友人を初めてリアステア城に招待したとはものすごく緊張いたしました。
「それでは私は氷祭りがある日まではフィリーネ様と会わないほうがいいかもしれませんね」
「そうかもしれません。·······リックと会えないのはとても寂しいですけれど、緊張が酷くなって、氷祭りの演舞が散々な出来になってしまっては元も子もありませんし」
正しいのは分かっていますけれど、リックと会えないのはやっぱり寂しいです。特にここ数日は毎日のように会話をしていましたから記憶が曖昧なことも相まって、余計にさみしく感じてしまうのでしょう。
それに氷祭りの日に合わないということは······
「ご安心ください。氷祭りの日はしっかりとフィリーネ様の舞を見届けますよ」
わたしの心情を察して、リックがそう言いました。どうやらわたしの懸念は杞憂に終わるようです。
「約束ですよ。氷祭りの後には必ず、お返事を聞かせていただきますからね」
「はい、約束でございます。私は一度決めた約束は破らない主義ですから」
わたし達は約束の証に手を交わし合います。
相変わらず鼓動が速いのは変化しませんでしたが、相談に乗っていただけてとても良かったと思います。
しかし、リックとの約束は叶うことはなかったのでした。
そういえば、今日は水曜日なので投稿予定日外でしたね。実は投稿するつもりもなく、前話の手直しついでに前書きを見てとてもびっくりとしました。
遅れてしまいましたがご容赦を。
っと話を変えまして、
リックとフィリーネの二人の劇場が開幕しました。
リリーとカルディナはどう考えてもあれでしょうと呆れつつも静かに見守ります。(つまり、二人に知らせることはありません。聞かれたら答えますけど·····)
リックはシエル・フルールの恋愛小説を愛読していますし、フィリーネもシエル・フルールの恋愛小説については記憶を喪失しているとはいえ、他の恋愛小説を読んだことはあるので、気づくはずですが気づきません。
それと、最後の振りはバットエンドの布石だとかそういった類の物ではありませんので、これからもアルカンシェルを見守ってやってください。




