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来てくれました

次回は日曜日の11時に投稿します。

 リリーが部屋を掃除している間、わたしは図書館に行くことにしました。

 この屋敷は辺境伯家が使用できるように設計されていることもあって、ほんの数もとても多いのです。


 誰もいないときは流石に勿体ないので、許可を取れば誰でも自由に閲覧することができるように解放されます。

 けれど、今は辺境伯家のわたしがいるので閉じられています。


 この図書館を独り占めにできる感覚がたまらない!


「姫様は本がお好きなのですか?」


 わたしがうわついたるんるん気分で貸出の手続きをしていると、カルティナが不思議そうに言いました。


「もちろんよ。だって本は現実ではない夢の世界に連れて行ってくれるもの。カルティナは読まないのですか?」

「はい。ルイーズ隊長もですが、騎士はやはり体を動かすことが好きなものが多いですから」


 つまりは一箇所に停止したまま動かないで本を読むのが苦手なのでしょう。


「わたしも最初は苦手でした······あれ?あそこに誰かいる?······誰でしょう?」


 わたしは図書館の机で読書をしている青い髪の人を見つけた。青髪はこのミスランティでは珍しいから、使用人の中にいれば覚えていると思います。

 ですけれど、記憶にはありませんから余程の新人でなければ違うでしょう。


 確認したく思ってら気づかれないよう静かに近寄ったわたしに気づいた青髪の人は、微笑みながら手を振ります。


「こんにちは、フィリーネ様」

「えぇと······」


 まるでわたしを知っているかのような口振りで青い髪の人は挨拶をしました。

 わたしは記憶になくて、どう接していたのか分からずに脳内が右往左往してしまいます。


 会ったことがある人でしょうか?


「姫様、こちらの方はリック様でございます。オスヴィン様が店主を務める呉服屋に最近雇われた新人だそうです。リリー様の仰るところによれば、姫様は彼を気に入っていた、とのことです」


 わたしが覚えていないことを理解したらしいカルティナが、わたしに耳打ちをして知らせてくれた。


「こんにちはリック様。えぇと、·······今日は如何されましたか?服飾の仕事をしていると聞きましたので、春用の服の制作で何か気になる部分でもありましたでしょうか?」


 わたしが覚えていないと公言するような挨拶をしたからか、リックは少しだけ寂しそうな顔をしました。


「あの、ごめんなさい。実は何かがあったらしくて、記憶にあやふやな部分があるのです。思い出そうとは努力しているのですが······」

「ええ、存じておりました」

「え?」


 知っていた?


 まだわたしが記憶をなくしたことは、屋敷の内部にしか拡がっていないと思いますので、そこまで広がっていないはずですけど·······どうしてでしょうか?


「先程、旦那様······オスヴィンから連絡を受けて知りました。オスヴィンはルイーズ様に聞いたそうです。リリー様からの伝言で至急屋敷に来てほしいと言われ、ここに参りました次第です。フィリーネ様の記憶喪失を知ったのは、一度呉服屋に向かったときにルイーズ様がもう一度いらっしゃった時ですね」


 わたしの疑問を感じ取ったのか、リックがここに来た経緯を説明してくれました。

 要約すればわたしが記憶を失って眠っている間にリリーが呼んでいたようです。

 目的は本人に聞かないとはっきりとはしないのですけれど、カルティナの耳打ちも勘案して推測すれば、おそらく何かがあって落ち込んだか傷ついたわたしを励ますために、リックを呼んでくれたのではないでしょうか。


 わたしがリックに関する記憶を失くしていたから、リリーの配慮が棒に振られることになってしまったのですけれど、その心遣いをしてくれたという事実だけでもさっきから心のなかに疼いている暗い何かが消えていくような気がしてなりません。


 わたしは心の中でリリーにありがとうを伝えました。


「なので私のことを忘れている可能性も理解していましたが、実際に直面すると寂しいものですね」

「ごめんなさい······」

「いえいえ、フィリーネ様が悪いのではありませんから。記憶を失った原因が悪いのです」


 謝ろうとしたわたしを遮って、リックが慰めます。


「ありがとう存じます」

「いえいえ、いつもフィリーネ様にはお世話になっておりますから。今度は私がお力になる番です」


 リックは優しい微笑みを向けます。

 その記憶もないのですけれど、記憶を失う前のわたしがリックを気に入った理由がわかるような気がします。


「······私が呼ばれたのは、フィリーネ様の記憶をどうこうするためではなく、フィリーネ様が少しでも元気になるためだと思います。何をしましょうか?ご希望はありますか」

「リックは本が好きですか?」


 わたしは今やりたいことといえば、読書です。

 図書館に来たのもそのため。リックも本を読んでいましたのだから好きだとは思いますけど、どうでしょうか?


「はい。もちろんです」

「それでは本の紹介をし合いませんか?」


 本の紹介は一人以上の大人数で楽しむものです。

 遠い異国の国ではビブリオバトルと呼ばれて親しまれていたりもするそうです。


 読んだ、読んでないやジャンルの好き苦手などは関係なく、相手に読ませたいと思わせることが肝要です。


 そんなことは置いておきまして、一人ですることが多い読書の中でも他の人と楽しめる本に関するものといえば、これと十進分類法分別遊びくらいでしょう。


「喜んで。それでは紹介したい本をいくつか探してきますから、フィリーネ様も探してきてください。·······あぁ、私が読んだことのない本はあちらの左奥の本の棚の部分に多かったです。参考までに」

「分かりました」


 リックはそう言うと、自分が紹介する本を探しに推理系の本が多いあたりに向かいました。

 わたしの読んだことのない本が多いジャンルです。


 さて、わたしも探しましょう。


 それと、その前に·······


「カルティナ、手の開いている使用人達と騎士達を集めてきてくださる?紹介は多い方がいいから」

「承知しました」


 わたしはカルディナに命じました。

 やはり人は多いほうがいいです。そちらの方が盛り上がりもですし、新たな意見が見つかりますから。


 そうしてわたし達は本の紹介を楽しみました。

 リックの紹介する本は前に読まないジャンルを伝えたことがあるのでしょうか?、と疑うくらいに未読の本が多くて、興味津々に聞かせていただきました。 


 シエル・フルールという人の作品は特にわたしの好きな恋愛要素も含まれているそうなので今度、時間が空いたときにでも読んでみようと思います。

また遅れました。すみません


ちなみにですが、フィリーネが失くした記憶は自身のトラウマだったりに関わるものです。

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