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一触即発

 ルイーズが何度も悪戦苦闘してやっとの思いで扉を蹴破ると、その先には意識を失って倒れそうなフィリーネがいた。


 ルイーズは一瞬だけフィリーネを害したであろうセドリックの方をちらりと睨んだが、フィリーネの安全確保が優先だと思い直して、フィリーネを救出に集中する。


 間一髪のところで間に合い、立ったまま崩れ落ちたフィリーネを剣を放り出して両腕で、大切に抱えたルイーズは今度こそセドリックを睨み据えた。


「貴様!姫様に何をした!」


 ルイーズはフィリーネと接するときには決して出さなかったほどの声量でがなる。眼尻には隠すつもりもない怒りの感情が溢れていて、増幅して溢れ出した魔力と共にセドリック達を威圧する。


「私からは弁明することもありません」

「ふざけるなッ!アイスショット!」


 淡々と語ったセドリックをルイーズは魔法で産み出した氷の刃をセドリックにぶつけた。

 怒りで手元が狂っていたため、精度も低ければ速度も人の足並みの簡単に避けられるものだったのだが、セドリックは回避動作をすることもなく氷の刃を浴びた。


「貴様!なぜ避けない!」


 魔法を得意としないルイーズは魔法を当てるつもりはなかった。その隙に放り出した剣を回収して、そこから仕切り直すつもりだったのだ。


 とはいえ魔法は軟な威力ではなく、防御もなしに直撃したセドリックの肩は服が破れ、血が流れ出している。


「避けてほしかったのか?戦いたいならば拒否はしない。私が償う対象はデイムだけ、其方に手加減などせぬ」

「望むところだっ!我々の大切な姫様を傷つけた罪、己の血で贖うがいい!」


 白馬の麗人ルイーズはセドリックに斬り掛かった。



 ***



 ルイーズは息を荒くしていた。負けたわけではないのだが、限りなく劣勢であり、想定外の結果だった。


 ルイーズは白馬の麗人という通り名がつくほどに騎士として強い人物であり、その高潔な性格と生真面目さ、何よりフィリーネやリリーという自分よりも強く、謙虚な人物がいるため決して驕り高ぶることはない。


 だからこそ、魔法の直撃を受けても驚き慌てたりしなかったセドリックのことをある程度は警戒していた。


 だからこそフィリーネと戦った時のように近接戦闘を安易に仕掛けたりせず、魔法や剣の波状攻撃等を駆使して、少しずつ近づく戦法を取っていた。


 しかし、やりすぎない範囲で使える戦い方は全て使ったにも関わらず、セドリックはそのいずれをも弾き返した。


「もう終わりか、白馬の麗人」


 セドリックはいつの間にか手にしていた白く発光する剣を携えて言った。全ての親愛の感情を捨て去ったような、凍り付いた目をしている。温度もぬくもりもない。


 ルイーズは怒り狂ったように睨みつけたままだが、既に平常心を取り戻している。ただ、それでもセドリックを許せなかっただけで、理性的に止めた方がいいという結論を出せばおそらく止める。


 負ける可能性は微塵も考えていなかった。負けると自分の職務外のことを勝手にしたことをリリーに怒られると確信していたからである。


 まあ、ルイーズの性格からするにたとえセドリックがどれだけ強かろうと結局は食い付いていたのだろう。


 良くも悪くも愚直で真面目、それが白馬の麗人の本質なのだから·······


「まだまだこれからに決まっているだろう!フィリーネ様の護衛騎士、ルイーズ・ハーバーマスの名にかけて!」


 ルイーズはなけなしの体力と気力、そして魔力を動員して、自分が使える一番強い攻撃を使うため、上段の構えを取り、精神を極限まで集中させる。


 精神力が具現化した紅い光がルイーズを包み込み、剣筋の先の先までを煌めかせる。少なくとも室内で使えば、大きな被害を免れられない。

 相殺するために仕方なく、セドリックも同じような系統の攻撃の構えを取る。


「そこまでにございます」


 執事が、二人の間に割り込む。

 それはあと刹那遅れていれば二人の攻撃が訓練場を埋め尽くしていたかもしれない、という危ない橋だった。


「ルイーズ様、あなた様にはこのようなところで身を捨てる戦いをするよりもやるべきことがあるのでは?」


 ルイーズはハッとした。

 倒れて意識を消失させているフィリーネを安全なところに連れ帰るのが先だと理解する。上段の構えと精神集中を解除した。ルイーズが解除したのを見届けてから追随するようにセドリックも臨戦体形を解いた。


「執事殿の言う通りです。戦いなどよりも姫様をお連れするほうが俄然大事です。バルデン宮中伯様、あなたが姫様に行った仕打ちを許すつもりはありませんが、先程までの比例をお詫びいたします」


 そう一方的に宣言すると、ルイーズはフィリーネを抱えてさっさと宮中伯邸をあとにした。


 兎にも角にもフィリーネ達はこの一触即発の危険な状態を辛うじて脱出することができたのである。



 ***



 ルイーズが去ってすぐにセドリックは倒れ伏した。余裕そうな表情をして戦っていたセドリックであったが内実はそんなことはなく、全力だった。


「白馬の麗人の名前は伊達ではないな」


 戦闘の終了直後に緊張感から解放されたセドリックが零したこの言葉がすべてを物語っている。ルイーズの女性に似合わない剣の重みがセドリックの体にダメージを蓄積させていた。


「若様、お怪我の手当を」

「いらぬ」


 セドリックは執事が行おうとした手当を拒絶する。


「これは私が背負わねばならぬ傷だ。目的のためとはいえフィリーネ様をあそこまで傷つけてしまったのだからな」

「······承知致しました」


 執事の悲しそうな声が訓練場を埋め尽くしていた。

共通テスト一日目、帰りの電車で車酔いをしながら書き続け、何とか投稿が叶いました。共通テストはやっぱり模試とは違う本番特有の緊張感があって疲れました。


明日はしっかりと確実に投稿します。


次回は本編または執事orリリー視点の閑話です。

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