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41. 例えすべてが終わったとしても

 いつの間にか、結希(ゆき)は目を覚ましていた。


 その瞳に、怯えの色が、恐怖の色が、はっきりと見て取れる。


「警察来るかもしれないから、見張っとけよ」

「はいはい」


 クズAに言われ、クズBがダルそうに小屋の入り口に立つ。


「結希の母親役やるの、本当苦痛だったわ」

「家族ごっこも、やっと終わりだな」


 言いながらクズAが、娘に近付く。


 両手両足を縛られた結希は身をよじるが、逃げられない。


 猿ぐつわをされた口から、うめき声が漏れる。


 ――ダメだ。


 娘が危ない。


 この身体で、こいつらを止めるには。


 娘を守るには。


 病室で微笑む、琴音(ことね)


「結希が自分の幸せをつかむまで、ちゃんと守ってあげてね」


 妻との約束。


 果たせなかった、約束。


 最期の約束。


 妻の亡骸の前で、泣き続ける、結希。


 空から降る星。


「来年も、一緒に、見よう」


 叶えられなかった、娘との約束。


 妻も娘も守れずに、終わるのか。


 大切な約束を、何一つ果たせないまま、終わるのか。


 夫として、父親として、何もできないまま終わるのか。


 何のために、この身体になってまで、この世にしがみついたのか。


 力が、欲しい。


 俺は、もう、どうなってもいい。


 だから。


 娘を守る、力を。


 すべて終わってもいい。


 だから。


「……っ!?」


 次の瞬間。


 俺の身体が、ふわりと宙に浮いた。


 何かが抜け落ちたような感覚――いや、違う。


 何かが解放された。


 自分の身体が、空中で動く。


 重さがない。限界もない。


 自分の身体が、エネルギー体のように感じられた。


 ああ。


 きっと、そうなんだ。


 これが、最期なんだ。


 それでもいい。


 さっき、そう願ったのは、俺だから。


 すべてが終わってもいいと思ったのは、俺だから。


「じゃあな、結希。俺らの金づるになってくれて、ありがとよ」


 クズAがナイフを握り直し、ゆっくりと振り上げる。


 結希の目が見開かれる。


 にじんだその瞳に絶望の色が濃く映る。


 届け。


 届け。


 俺は宙を蹴ると、一直線にクズAの後頭部めがけて、体当たりをぶちかました。


「がっ……」


 予期しない攻撃に、床に倒れこむクズA。息を吐き出し、身体をよじる。


 まだだ。これで終わりじゃない。


 俺は室内を天井まで舞い上がると、クズAのお腹に向かって急降下する。


「ぐっ……」


 二度、三度、四度。


 執拗に鳩尾を狙い、ありったけの力で体当たりを繰り返す。


「えっ……。何? 何なの!?」


 状況が分からず困惑するクズB。


 おまえもだ。絶対に逃がさない。


 再び天井へ舞い上がると、今度はクズBの鳩尾めがけて急降下し、体当たりを食らわせる。


「……っっ!?」


 こっちは一撃だった。


 クズBの身体がガクンと崩れ、そのまま動かなくなる。


 狭い小屋の中。


 床に、クズ二人の気絶した身体が横たわっている。


 静寂が、再び森の奥から戻ってきた。

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