37. 見守る
あの後、結希はそのまま眠った。星を見に行こうとはしなかった。そんな気持ちにすらなれなかったのだろう。
娘が眠ったことを確かめてから、俺は部屋の外に出た。キッチンに向かうと、ゴミ袋を開けて、結希が片付けたクッキー缶を手に取る。缶の底のシールに、予想どおり書かれていた。原材料にピーナッツの表示が。
娘は医者から、ピーナッツは触るだけなら大丈夫だが、食べると命に関わると言われている。掃除機だけなら問題ないはずだ。
とはいえ、掃除機をかけたときに粉を吸い込んだかもしれない。粉を触った手で、涙をぬぐったかもしれない。あの後そのまま眠っているのは、身体の調子が悪くなったからかもしれない。一気に不安が押し寄せる。
クッキー缶をゴミ袋に戻すと、俺は結希の部屋に戻った。ベッドによじ登り、娘の様子を観察する。
すやすやと寝息をたてて眠っているし、苦しそうな様子はうかがえない。手や指先も確認したが、特に異常は見られない。
とはいえ、気が気じゃない。できるだけ静かにベッドから下り、今度はハンガーラックの下に置かれているランドセルを開ける。
中には……あった。エピペン。けれど、使用期限が切れている。
やっぱり、間違いない。あいつら、一回も結希を病院に連れて行っていない。
ピーナッツ入りのクッキーを用意したということは、あいつらは結希のアレルギーを知っているはずだ。それなのに、病院に連れていってすらいない。結希は言い出せなかったのか、言っても無視されたのか。
そんなの、どちらでもいい。結希のアレルギーを知っていながら、あいつらは病院へ連れて行かなかった。新しいエピペンをもらいに行かなかった。それが全てだ。
使用期限切れのエピペンは使っても大丈夫だろうか。不安だけれど、他に方法がない。もしも娘の様子がおかしくなったら、これを使うしかない。
机の上によじ登って座り、結希の様子を観察する。一晩中、見守り続けるしかない。
そう思って気合いを入れるが、じっと座っていると、だんだんとまどろんできた。マズイと思い、立ち上がって少しうろうろしたり、スクワットをしたりしてみるが、座るとダメだ。
机から下りてベッドによじ登り、もう一度娘の様子を近くで見てみる。特に苦しそうな様子は見られない。2時間以上経っているし、もう大丈夫だろうか。
気付けば、無意識のうちに、眠っている娘の頭をなでていた。小さい頃、よく、そうしていたように。




