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32. 決意

 時間が、ない。


 今日の夜、俺は花凛(かりん)の家に帰る。それまでに、何か手がかりを見つけたい。


 あの後、家に帰り、いつものように結希(ゆき)は、一人で眠った。今日も一人で起きて朝ごはんを食べ、一人で学校に行った。本当なら、朝ごはんを用意して、一緒に食べていたはずなのに。おやすみも、おはようも、いってらっしゃいも必ず言ったのに。もう二度と、それは、叶わない。


 結希が出かけたのを確認して、俺はベッドから下りた。あいつらが眠っているうちに、何か犯罪の証拠になるようなものを探さなければいけない。


 相変わらず、結希の部屋のドアは最後まで閉まっていない。結希の部屋だけじゃない。他の部屋もそうだ。リビングもそう。キッチンもそう。結希は、ドアを最後までちゃんと閉めなくなった。ラッチがかかる直前で止めるようになった。昔はそうでもなかった。小さい頃は子どもによくあるいい加減さで、ドアを閉めたり開けっ放しにしたりしていた。


 それが、妻の琴音(ことね)が亡くなってから、ドアをラッチがかかるまで閉めなくなった。心のどこかで、自分一人の空間として切り取られることを怖がっていたんじゃないかと思う。


 だから俺も閉めるように言ったことはなかった。今はそのおかげで、部屋から出られる。ラッチがかかっていたらドアノブまでよじ登るのは、かなり大変になっていた思う。


 結希の部屋を出ると俺は、一番西の部屋へと向かう。俺が寝室として使っていた部屋。今はあの二人がダブルベッドを置いて眠っている部屋。そこは、お前らが眠っていい場所ではない。


 部屋のドアは開いていた。この二人がだらしないだけだろう。部屋に入り、ベッドによじ登る。二人はそこで眠っている。今日もこいつらは酒臭い。


 あの日。俺が殺されたあの日。


 俺はこの部屋で眠っていた。深夜何時だったのかも分からない。物音に気付き、目が覚めた。足音。話し声。明らかに、廊下に誰かがいた。ベッドから下り、廊下へ向かおうとしたところで、突然ドアが開いた。


 暗闇の中で、数名の人影が動いた。先頭の男が何かを振り上げる。次の瞬間、頭に衝撃を覚えてよろめき、床に倒れこんだ。殴られた、と思った。あれがきっと、バールのようなものだったのだろう。


 倒れこんだ俺に、数名の人影が暴行を加える。記憶が曖昧だけれど、刺されたような気もする。薄れゆく意識の中で、今日この家に結希がいなくてよかったと思ったことは、はっきりと覚えている。


 あの中にこいつらがいたのだろうか。あるいは、あの実行犯を差し向けたのが、こいつらなのだろうか。


 この二人が主犯だという証拠はない。まったく違うルートから来た強盗の可能性も否定はできない。


 けれど、家の合鍵を作ることのできる可能性があったこと、わざわざ結希のいない日に犯行が行われたこと、今こいつらが結希と一緒に暮らしていること、そして結希にまったく関心を示さないこと。これだけ条件が整えば、こいつらが犯人だと考えない方がおかしい。


 どんな些細なものでもいい。こいつらを警察に突き出せるような犯罪の証拠が欲しい。


 そして。もしも見つからない場合は。


 目の前の二人を、殺してやりたい衝動に駆られる。こいつらを、地獄に落としてやりたい。


 ベッドで眠る二人の顔を見る。二人が眠っているときなら、ぬいぐるみのこの身体でも。


 けれど、それは最終手段だ。結希にこの二人の死体を発見させたくない。この家を、俺と琴音と結希の、家族の想い出が詰まったこの家を、血塗られた場所にしたくない。


 娘は絶対に、俺が守る。

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