信じています
ユリアが目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。
どうしてこんな所に?
と一瞬考えたが、すぐ自分に起きた事を思い出す。
あの時、誰かが店に入ってきた事に気づいたがその後の記憶が全くない。
私は誘拐されたんだ……。
ユリアはすぐに理解した。
ユリアは周りを見回す。
どこかの小屋だろうか。
部屋には天窓が1つだけ。
耳をすましても音は聞こえない。
時々、馬の鳴き声が聞こえるがそれは自分を誘拐した人の乗ってきた馬なのだろう。
一通り辺りを見て、体を動かしてみた。
後ろ手に縛られているので手は動かせなかった。
「う、痛っ。」
薬品か何かを嗅がされたのか、もしくは運ばれてくる時に頭を打ったのか、頭が痛い。
窓を見上げると、外は暗かった。
部屋には暖炉があるが、すきま風が入りかなり寒かった。
ガタっ!
「……!」
扉が開く音がした。
ユリアはとっさに寝たフリをした。
何人かの足音が聞こえる。
その足音が静かになってから、また扉が閉まる音がした。
ユリアは起きている事を気づかれないように
髪で顔を隠して下を向く。
薄目を開けると、男の足が見えた。
「おい、まだ目を覚まさないのか。」
「ええ、タイラーの旦那。ちょっと薬が効きすぎたんと違いますかね?」
やっぱり何か薬品を嗅がされたんだわ。
タイラーって?タイラーって誰だろう。
「ふっ、まぁいいさ。目が覚めたら知らせろ。」
「わかりやした。」
タイラーと呼ばれる男は、そのまま小屋を出て行った。
こんな時、攻撃魔法の一つでも覚えておけば…と悔やむユリアであるが、子供の頃から魔法の練習を禁止されていたユリアにとって仕方ない事だ。
小屋に残ったのは2人だった。
ユリアはしばらくその2人の会話を聞いていた。
分かった事は
私が街に居れなくする事。
魔法カフェを火事にしようとしたが出来なかった事。
誘拐される理由など思いつかないユリア。
このまま寝たフリをしていても話は進まないだろうと
男達に話しかけた。
「あのー。すみません。」
「うわぁっ!お前!起きてたのか?」
「え、はい。今、目を覚ましたんですけど。」
「こいつ、自分が誘拐されたってのに意外と冷静だな。」
いや、さっきから話は聞いてたんだけどね。
「どうして、私は誘拐されたんですか?」
「そんな事、俺達が知るわけねぇだろ。」
「はぁ……」
「とにかくだ!おい!旦那を呼んでこい!」
リーダー格の男が指示をして、さっきのタイラーとかいう男を呼びに行った。
しばらくして、タイラーがやって来る。
タイラーはユリアの目の前にしゃがむと話し出した。
「あんたには悪いが、街には戻ってこないでもらいたい。そうだな、遠くに送り届けてやるからどこの街にでも行って暮らすといい。」
「どういう事ですか。」
ユリアはタイラーを睨みつける。
「あんたは何もしてなくてもな、あんたがいるだけで困る人がいるんだよ。何も聞かない方がいいぞ。あんたの為だ。」
ユリアは黙っている。
「誰の指示ですか。貴方、指示されて誘拐したんでしょ?」
タイラーは気持ち悪い笑みを浮かべた。
「何にも聞かない方がいい。明日の朝、あんたをこいつらが遠くまで送るから。二度と街には戻るな。もし、戻ったら今度は命はないぞ。」
タイラーがギロっとユリアを睨む。
怖がっちゃいけない!
ユリアはぐっと我慢した。
トーマス様もきっと今頃気付いて探しているはず。
私はこんな所で誘拐されている場合じゃないんだから。
やりたい事も沢山ある!
トーマス様に言いたい事もある!
ユリアはただただトーマスの事を思った。
全く怖くないと言えば嘘になるが、トーマスの事を思うと自然と心が落ち着いた。
その頃、ユリアが捕われている小屋の周りには
沢山の人影があった。
足音もたてずに移動する人影。
それはトーマスをはじめとする騎士団とハンプトン辺境伯だった。




