ユリアの危機
昼過ぎの魔法カフェ。
ユリアはランチタイムが終わりひと息ついていた。
基本的にカフェには休憩時間はなく
キッチンの横にある簡易スペースにある椅子で
休憩するユリア。
今日は朝からパンを買いに来るお客さんが多く
次から次に売れて行ったので、パンを作るのに忙しかった。
今日の暖かな日差しもあってか
ユリアはキッチン横の椅子でウトウトとしてしまった。
カラン♩
ドアベルの音がしたがユリアはそれに気づかなかった。
店内に入ってきた人影はそっとドアを閉める。
そして、店内を見回しユリアの姿を探す。
足音も立てない人影はキッチン横にいるユリアを見つけた。
そして、そのままユリアの口にハンカチをあてがった。
ユリアは突然の事で驚き身動ぎをしたが、急に気が遠くなりすぐに意識を手放した。
その頃、ジョアル・ハンプトン辺境伯は
ちょうどユリアの魔法カフェの辺りを馬車で通っていた。
すると、馬車が止まる。
「どうした?」
ハンプトンが前に乗っている従者に声をかける。
「ハンプトン様、申し訳ありません。道に馬車が止まっていまして。通り抜けできないんです。」
従者は馬車から降りて馬を撫でている。
ハンプトンは不思議に思い、馬車から顔を出した。
すると、向こうの方に馬車が止まっている。
その時、建物の中から人を抱えた男が3人ほど建物から出てくる。
「ん?」
ハンプトンは目を凝らした。
ハンプトンは辺境に暮らしており、その戦闘能力はトーマスに匹敵するほどだった。
いつも訓練しているハンプトンは遠くのものを見る力が抜きに出ていた。
ハンプトンが目を凝らした先に見えたもの。
それは気を失っているのかダラりとした女性を肩に担いだ男の姿だった。
「あれは、ユリアさん!!」
ハンプトンはすぐさま馬車を降り、従者に騎士団にいるトーマスにこの事を知らせろと指示して掛けて行った。
どういうことだ!なんで、ユリアさんが!
ハンプトンの側近が反対方向に走る。
側近もまた十分に訓練を受けている身であるので唯ならぬ雰囲気に気づき、近くの馬屋に馬を借りに走ったのだ。
ハンプトンは建物の影から男たちが馬車にユリアを乗せるのを見た。
この距離では追いつかない。
下手に気づかれればユリアの命の危険もある。
ハンプトンは男たちが無事にユリアを馬車に乗せ走り出すのを待った。
ユリアと男達を乗せた馬車を見送る。
側近が馬を調達し、側近を見張りに行かせハンプトンはトーマスの所へと急いだ。
騎士団の宿舎に着いた時、ちょうど連絡に行かせた馬車の従者も到着した所だった。
トーマスを捕まえて事の次第を話している。
「トーマス君!」
ハンプトンはトーマスの元へ急いだ。
「ハンプトン様!ユリアさんが!ユリアさんが!」
「ああ!分かっている。まずは落ち着きなさい!」
しかし、トーマスの目は今にも飛び出して行きそうなくらい血走っていた。
「トーマス君!」
ハンプトンはトーマスを殴った。
その勢いで、トーマスは飛んだ。
他の騎士達は何事かと驚く。
「ハンプトン様!何故!」
「トーマス君!落ち着きなさい。」
トーマスはハンプトンに殴られた事で少し落ち着いたようだ。
「トーマス君!今は私の話を聞きなさい。」
「…………」
騒ぎを聞きつけたエディもやって来る。
「トーマス、立てるか。」
「ああ。」
トーマスが落ち着いたのを見て、ハンプトンが話し出す。
「ユリアさんを拐った人間に見覚えがある。おそらく間違いない。」
「どこの誰なんですか!」
「ピットーニ家の者だ。」
「ピットーニ家?」
「ピットーニ家の裏の顔はトーマス君も知っているだろう。その裏の仕事をしている男に間違いない。」
「何故ピットーニ家がユリアさんを!」
「それは分からない。今、側近に後をつけさせている。下手に騒ぐとユリアさんの命が危ない。場所を突き止めたら連絡が来る。それまで待ちなさい。」
トーマスは掌に血が滲むほど強く拳を握った。




