帰り道でのハグ
ミュゼット主催のお食事会は
とても楽しいものだった。
途中、ハンプトン辺境伯の新婚旅行発言で
トーマスも私もしばらく使い物にならなかったのは忘れよう。
美味しい食事をいただきながら、面白い会話を沢山した。
ユリアは夢見心地だった。
庶民の自分がこんな素敵な場に呼んで貰えるなんて。
ミュゼットに心から感謝したのである。
ユリアが余韻に浸っているとトーマスが何やら険しい表情で見たきた。
ど、ど、どうしたんだろうトーマス様。
何か変なものでも食べたのかしら?
「あの、トーマス様?どうされたんですか?もしかしてお腹が痛いとか?」
「ち、違います!」
トーマスはビクッと体を硬らせると
ユリアの手を取った。
「ユリアさん、僕はいつか貴方と結婚したいと思っています。さっきはいきなりの事だったので、その……上手く言えなかったが。僕は貴方と生涯共にしたいと心から思っているのです。」
「ト、ト、トーマス様。」
「今は聞いてください。」
トーマスは深呼吸してユリアを見る。
「僕は恋愛の経験もないですし、何が正解なのか分かりません。だけど、貴方を思う気持ちは誰にも負けない。そんな貴方とこれからずっと一緒にいたいと思うのは当たり前の事。」
「は、はい。」
「貴方は僕が貴族だから、その事が気になっているのでしょうが。そんな事は問題ではない!」
いや、トーマス様。
それが一番問題なんですとはユリアには言えなかった。
そしてユリアは、次の言葉を聞いて驚きすぎて倒れそうになる。
「僕は貴方の為なら、貴族の位を捨てます!」
ユリアは耳を疑った。
「貴族を捨てる?」
「そうです。僕は貴族として生きるより貴方を選びます。」
「トーマス様!そんな事!言ってはいけません!」
「いや、それくらいの覚悟があるという事をお伝えしたかったのです。」
ユリアは驚きすぎてクラクラしている。
でも、トーマスはすぐに優しい笑顔になった。
「大丈夫です。最近は貴族位を持たない人と結婚する貴族もおります。それに、僕は公爵の生まれと言っても次男ですから!」
「で、でも……」
「安心してください。きちんと家族を説得してみせます。ですからユリアさん……その時まで待っていてください。」
トーマスの手に力が入る。
「は、はい。わかりました。トーマス様を信じます。」
「良かった!」
トーマスは思わずユリアを抱きしめてしまった。
しかし、トーマスは嬉しさのあまり更に腕に力を込める。
「ト、ト、トーマス……様くる…し…い。」
「は!これは!ユリアさん!申し訳ない!だ、だ、大丈夫ですか?」
トーマスはとっさに離れた。
「はぁ、はぁ。苦しかった……。」
「申し訳ない。」
トーマスは抱きしめてしまった恥ずかしさよりも
ユリアを抱き殺してしまいそうになった事を気にした。
初めてのハグがこんなにも苦しい思い出になってしまった2人だった。




