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『性欲と肉体のナイトゲーム』  作者: こうた
第6章 接客スマイルは俺だけのもの?

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第93話 偶然を装った再会

二〇二一年十二月十三日、月曜日。


大野健太は、会社の休憩室でスマートフォンを確認していた。


まみからの返信は、まだ届いていない。


以前なら、何度も画面を開いていたところだが、最近は少しだけ気持ちを切り替えられるようになっていた。


そのとき、木村亮が声をかけてきた。


「大野さん、今週末って予定あります?」


「いや、特にないけど」


「うちの嫁の友達が、忘年会に来ることになったんですよ。よかったら参加しません?」


「女性も来るんか?」


「もちろんです」


健太の表情が少し明るくなった。


「どんな人?」


「それは会ってみないと分からないですよ」


「年齢は?」


「三十代くらいですかね」


木村は笑った。


「ただの忘年会ですからね。最初から恋愛目的で考えないでくださいよ」


「分かってるって」


健太は参加することにした。


     *


十二月十八日、土曜日。


忘年会は大阪市内の居酒屋で開かれた。


参加者は八人。


木村夫婦と、その友人たち、そして健太だった。


健太は少し緊張していた。


女性は三人。


そのうち一人は既婚者で、もう一人は恋人がいるという。


残る一人が、三十四歳の女性・高橋修司の紹介で参加したという吉岡なるみだった。


「初めまして。吉岡なるみです」


「大野健太です。よろしくお願いします」


なるみは落ち着いた雰囲気の女性だった。


肩より少し長い髪で、話し方も穏やかだった。


仕事は事務職で、休日は友人と食事に行ったり、映画を見たりしているという。


「大野さんは、趣味は何ですか?」


「草野球ですね。社会人チームでやっています」


「野球ですか。観るのも好きなんですか?」


「はい。昔から好きです」


会話は自然に続いた。


健太は、相手の話を聞くことを意識した。


自分の話ばかりにならないように気をつける。


なるみも笑顔で話してくれた。


ただ、それが恋愛感情なのか、単に会話を楽しんでいるだけなのかは分からない。


健太は、以前よりもその違いを意識するようになっていた。


     *


午後九時。


忘年会が終わり、参加者たちは店の前で解散することになった。


「今日は楽しかったです」


なるみが言った。


「こちらこそ。ありがとうございました」


健太は少し迷った。


連絡先を交換したい。


しかし、相手の気持ちも分からない。


木村が近くにいたので、相談するように目を向けた。


木村は小さくうなずいた。


健太はなるみに尋ねた。


「もしよかったら、また皆さんで食事に行くときに参加しませんか?」


なるみは笑った。


「そうですね。予定が合えばぜひ」


「ありがとうございます」


健太は、それ以上踏み込まなかった。


     *


十二月十九日、日曜日。


健太は昼過ぎから買い物に出かけた。


母親から頼まれた日用品を購入するため、いつものショッピングモールに向かった。


買い物を終えた後、家電売り場の前を通りかかった。


そこに、沙織がいた。


別の客に商品を説明している。


健太は思わず足を止めた。


また会えた。


しかし、今日は買いたい家電があるわけではない。


それでも、少し話したいと思ってしまう。


客の説明が終わるのを待ち、沙織がこちらに気づいた。


「あっ、こんにちは」


「こんにちは」


沙織はいつもの笑顔だった。


「今日は何かお探しですか?」


健太は一瞬、答えに困った。


「いや、今日は買い物に来ただけで」


「そうなんですね。いつもありがとうございます」


それだけだった。


沙織は次の仕事に戻ろうとしていた。


健太は、何か話題を探した。


「吉岡さん、いつも忙しそうですね」


「そうですね。年末なので、お客様が多いんです」


「大変ですね」


「ありがとうございます。でも、仕事なので頑張ります」


沙織は笑顔で答えた。


そのとき、別の客から声がかかった。


「すみません、ちょっといいですか?」


「あ、はい。ただいま伺います」


沙織は健太に軽く会釈して、客のもとへ向かった。


健太はその場に残った。


自分との会話を終わらせたかったのだろうか。


それとも、単に仕事があるだけなのか。


考えても答えは出なかった。


     *


帰宅後。


健太は藤井直樹に電話をした。


「今日、また家電量販店の店員さんに会った」


「また行ったんか?」


「買い物のついでや」


「それで?」


「少し話したけど、仕事が忙しそうやった」


藤井は笑った。


「そら仕事中やからな」


「俺と話すのが嫌なんかな」


「そこまで考える必要ないやろ」


「でも、すぐ別の客のところに行ったし」


藤井は少し真面目な声になった。


「健太。相手が仕事中に、お前と長く話す必要はないんやで」


「分かってる」


「それに、何度も店に行って話しかけることが続けば、相手が困る可能性もある」


健太は黙った。


「気になる気持ちは分かる。でも、相手の仕事の邪魔をしてまで自分の気持ちを満たそうとしたらあかん」


「そうやな」


「今度からは、必要な買い物があるときだけ行けばええ」


健太はうなずいた。


     *


その夜。


健太は、忘年会で会ったなるみのことを思い出していた。


彼女とは自然に会話ができた。


仕事の話や映画の話、休日の過ごし方など、いろいろな話をした。


もう一度会えたらいいと思う。


健太は木村にメッセージを送った。


『昨日のなるみさん、また皆で会う機会あるかな?』


木村から返事が来た。


『あると思いますよ。嫁もまた集まりたいと言っていました』


健太は少し安心した。


しかし、その直後にもう一通届いた。


『ちなみに、なるみさんには今、付き合っている人はいないそうですが、恋愛する気があるかまでは分かりませんよ』


健太は苦笑いした。


恋人がいないことと、自分に興味があることは違う。


そんなことは、もう分かっている。


それでも、期待してしまう自分がいる。


健太はスマートフォンを置いた。


今度は、偶然の再会を期待して店に通うのではなく、相手と自然に会える機会を待とう。


そう考えながら、眠りについた。

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