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『性欲と肉体のナイトゲーム』  作者: こうた
第5章 41歳の女性が教えてくれない答え

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第89話 彼女が選ぼうとしている人生

十一月六日、土曜日。


大野健太は、佐藤まみから届いたメッセージを何度も読み返していた。


『今度会ったときに聞いてほしいことがあります。私自身のこれからについて、少し考えていることがあるんです』


これからについて。


健太は、その言葉の意味を考えていた。


もしかすると、恋愛について何か話があるのかもしれない。


あるいは、息子との生活や仕事についての話かもしれない。


期待したい気持ちと、期待しすぎてはいけないという気持ちが入り混じっていた。


     *


十一月九日、火曜日。


仕事帰り。


健太は、ドリーム・エース・ナインの田村と藤井に相談していた。


「今度、まみさんと会うことになった」


「お、よかったやん」


田村が笑った。


「それで、何か話があるらしいんや」


「何の話?」


「これからのことって」


藤井が首をかしげた。


「お前との関係についてとは限らんやろ」


「分かってる」


「分かってるなら、先に答えを決めるなよ」


田村も続けた。


「相手が話したいことを聞けばいい。それだけや」


健太はうなずいた。


「今回は余計なことを言わんようにするわ」


「それが一番難しそうやな」


藤井が笑った。


     *


十一月十三日、土曜日。


午後二時。


健太は駅前のカフェでまみを待っていた。


約束の時間になると、まみがやってきた。


「お待たせしました」


「こんにちは。久しぶりですね」


「そうですね」


二人は笑顔で挨拶を交わした。


注文を済ませ、近況について話し始めた。


まみの息子は、少しずつ落ち着いた生活に戻っているという。


元夫との話し合いも、第三者に相談しながら進めているそうだ。


「まだ全部解決したわけではないですけど、前よりは安心しています」


「よかったですね」


健太は心からそう思った。


「健太さんはどうですか?」


「仕事も野球も、いつも通りです」


「野球、続けているんですね」


「はい。来週も試合があります」


まみは笑った。


「健太さんらしいですね」


     *


しばらくして、まみはカップを置いた。


「今日は、少し話したいことがあるんです」


「はい」


「私、これから仕事を変えようかと思っています」


健太は驚いた。


「転職ですか?」


「はい。今の仕事も嫌いではないんですけど、息子との時間をもっと大切にしたくて」


「そうなんですね」


「勤務時間を短くするか、在宅でできる仕事を探すか、いろいろ考えています」


まみは少し笑った。


「ただ、収入が減る可能性もあるので、簡単には決められないんです」


健太はうなずいた。


「生活に関わることですもんね」


「そうなんです。今までは、仕事も育児も全部頑張ろうとしていました。でも、これからは無理をしすぎない生活にしたいんです」


「いいと思います」


「ただ、周りからは、子どものためにもっと働いた方がいいと言われることもあります」


健太は少し考えた。


「周りの意見もあると思いますけど、実際に生活するのはまみさんと息子さんですからね」


「そうですね」


「まみさんが納得できる選択をするのが一番だと思います」


まみは、少し安心したような表情を見せた。


「健太さんは、私が仕事を辞めたり、収入が減ったりしたら、どう思いますか?」


健太は一瞬、言葉に詰まった。


自分は年収六百万円程度。


家族を養うことになれば、生活費や教育費も必要になる。


まみには子どもがいる。


もし交際して、将来を考えるなら、お金の問題も無関係ではない。


しかし、今その話をする段階なのだろうか。


「正直に言うと、将来の生活を考えるなら、お金のことも大切だと思います。でも、今の段階で、まみさんの働き方に口を出すつもりはないです」


まみは健太を見つめた。


「そう言ってくれるんですね」


「俺も、まだ知らないことが多いですから」


「ありがとうございます」


     *


午後四時。


二人はカフェを出た。


駅まで歩く途中、まみが言った。


「健太さんと話していると、無理に答えを出さなくていい気がします」


「そうですか?」


「はい。私、今まで人の期待に応えようとしてばかりだったんです」


まみは少し立ち止まった。


「母親として、働く人として、誰かの妻として。いつも何かを求められている気がしていました」


健太は黙って聞いた。


「だから、これからは自分の人生も大切にしたいんです」


「そうですね」


「恋愛も、焦って始めるつもりはありません」


健太はうなずいた。


「分かっています」


まみは笑った。


「でも、健太さんと会う時間は楽しいです」


その言葉に、健太の胸が高鳴った。


「俺も楽しいです」


「また会いましょう」


「はい」


二人は駅で別れた。


     *


帰宅後。


健太は、姉の真紀に電話をした。


「今日、まみさんと会ってきた」


「どうやった?」


「仕事を変えようか考えてるらしい」


「そうなんや」


「子どもとの時間を大切にしたいって」


真紀はうなずくような声を出した。


「それで?」


「俺と話す時間は楽しいって言ってくれた」


「よかったやん」


健太は少し笑った。


「でも、恋愛は焦ってないって」


「それが今の彼女の気持ちなんやろ」


「俺は待った方がいいんかな」


真紀は少し強い口調で言った。


「だから、待つかどうかを彼女に決めてもらおうとするなって」


「え?」


「お前はお前の生活を続けたらええ。彼女と会いたいなら会いたいと伝えればいい。でも、彼女の人生を自分の都合で変えようとしたらあかん」


健太は黙って聞いていた。


「恋愛って、相手を自分の人生に合わせることやないやろ」


「そうやな」


電話を切った後、健太は窓の外を眺めた。


まみと一緒にいる時間は楽しい。


もっと知りたいと思う。


しかし、彼女には彼女の人生がある。


そして、自分にも自分の人生がある。


その二つが重なるかどうかは、まだ分からない。


     *


十一月十四日、日曜日。


午後九時。


健太のスマートフォンに、ひとみからメッセージが届いた。


『お久しぶりです。最近どうしていますか?』


健太は画面を見つめた。


ひとみとの関係も、完全に終わったわけではない。


まみとの関係も、まだ始まったばかりだ。


健太は返信した。


『元気にしています。ひとみさんはどうですか?』


すぐに返事が届いた。


『元気です。実は、少しお話ししたいことがあります』


健太は眉をひそめた。


また、話したいこと。


その言葉に、少し嫌な予感がした。


次のメッセージは、予想していなかった内容だった。


『私、最近お付き合いを始めた人がいるんです』


健太は画面を見つめたまま、動けなかった。

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