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『性欲と肉体のナイトゲーム』  作者: こうた
第5章 41歳の女性が教えてくれない答え

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第85話 選ばれたい男の本音

九月二十七日、月曜日。


大野健太は、出勤前の食卓でスマートフォンを眺めていた。


画面には、佐藤ひとみから届いたメッセージが表示されている。


『もしよかったら、今度お茶でもしませんか?』


三十五歳のひとみ。


明るく、話題も豊富で、メッセージのやり取りも続いている。


一方で、佐藤まみとは三度会った。


まみは三十七歳。

六歳の息子を育てながら仕事をしている。


二人とも、健太にとっては気になる存在だった。


「どうしたん? 朝からスマホ見て」


母の美代子が声をかけた。


「いや、何でもない」


「また女の人?」


健太は苦笑した。


「まあな」


「焦らんときや。相手にも生活があるんやから」


「分かってるって」


美代子は食器を片付けながら言った。


「でも、相手に好かれることばっかり考えたらあかんよ。自分がその人と一緒にいて、どう感じるかも大事やで」


健太は、その言葉を頭の中で繰り返した。


     *


昼休み。


健太は、ひとみに返信した。


『ありがとうございます。ぜひ一度お会いしてみたいです。来週なら都合がつきそうです』


すぐに返信が届いた。


『よかったです。では、来週の日曜日はいかがですか?』


健太は予定を確認した。


草野球の試合は土曜日。

日曜日は空いている。


『大丈夫です。午後なら都合がつきます』


こうして、ひとみとの初対面が決まった。


健太は少し浮き立つ気持ちを抑えながら、スマートフォンをしまった。


     *


九月二十九日、水曜日。


仕事終わり。


健太は木村亮と帰り道を歩いていた。


「最近、どうなん?」


「今度、別の女性とも会うことになった」


「例の子どもがいる人とは?」


「まみさんとも連絡は取ってる」


木村は少し考えた。


「ちゃんと自分の気持ちを整理できてるか?」


「まだ分からん」


「二人ともいい人なんか?」


「そうやな。タイプは違うけど」


「なら、比べる前に、それぞれの人と普通に話してみたらええやん」


健太はうなずいた。


「ただな」


木村が続けた。


「相手を選ぶことばっかり考えて、自分が選ばれるかどうかを気にしすぎるなよ」


「どういうこと?」


「お前、女性から返信が来たら喜んで、返信が遅れたら落ち込むやろ。相手の反応が自分の価値みたいになってる」


健太は言い返せなかった。


「恋愛は採点試験ちゃうで。相性が合うかどうかや」


「分かってるけど、なかなか難しいな」


「そら、慣れてないからやろ。でも、相手も人間や。お前のことを好きになる義務はないし、お前も誰かを好きにならなあかんわけでもない」


その言葉は、健太にとって少し厳しかった。


しかし、間違ってはいなかった。


     *


十月二日、土曜日。


ドリーム・エース・ナインの試合が行われた。


健太は三塁手として出場した。


第二打席、外角の球を引っ張り、三塁線を破る二塁打を放った。


「ナイスバッティング!」


ベンチから石田が声を上げた。


健太は二塁ベース上で笑った。


試合は接戦の末、チームが勝利した。


終了後、田村が健太に声をかけた。


「最近、少し顔つきが変わったな」


「そうか?」


「前は女性の話になると、すぐ浮かれてたけどな」


藤井も笑った。


「今は少し考えるようになったんちゃう?」


「俺も成長してるってことやな」


健太は胸を張った。


すると中村が口を挟んだ。


「いやいや、まだ彼女できてへんやん」


「うるさいわ!」


周囲から笑いが起こった。


健太も笑った。


ただ、以前のように強がって笑うのではなく、今の自分を少しだけ認められるようになっていた。


     *


十月三日、日曜日。


午後一時半。


健太は、ひとみとの待ち合わせ場所に到着した。


駅前のカフェ。


約束の時間まで、まだ十分ある。


健太は何度も髪型を確認し、シャツの襟を整えた。


「大野さんですか?」


声をかけられ、振り返る。


そこに立っていたのは、肩までの髪をゆるく巻いた女性だった。


「佐藤ひとみさんですか?」


「はい。初めまして」


「初めまして。大野健太です」


二人は挨拶を交わし、店内へ入った。


ひとみは旅行の話を始めた。


「私、最近一人で京都に行ったんです」


「一人でですか?」


「はい。自分のペースで歩けるので、結構好きなんですよ」


「俺は一人旅はあまりしたことがないですね」


「そうなんですね。今度、どこか行ってみたらいいですよ」


会話は弾んだ。


ひとみは質問をしてくれるし、健太の話にもよく笑ってくれた。


健太は、久しぶりに自分が女性との会話を楽しんでいると感じた。


「大野さんは、結婚したいと思っていますか?」


「はい。できれば、将来は家庭を持ちたいです」


「私もそうです。ただ、結婚すること自体が目的ではないんです」


ひとみはコーヒーを一口飲んだ。


「一緒にいて自然体でいられる人がいいですね。無理して合わせなくてもいい関係が理想です」


「いいですね」


健太はうなずいた。


「大野さんは、どんな人がタイプですか?」


健太は少し考えた。


以前なら、容姿や年齢、性格などを並べていただろう。


しかし、今日は違った。


「一緒にいて、無理をしなくていい人ですかね」


ひとみは笑った。


「それ、いいですね」


     *


午後四時。


二人は店を出た。


「今日はありがとうございました」


ひとみが言った。


「こちらこそ、楽しかったです」


「また機会があれば、食事でも行きましょう」


「ぜひ」


連絡先を交換し、二人は別れた。


健太は駅に向かいながら、胸の高鳴りを感じていた。


ひとみとの会話は楽しかった。


もっと話してみたいと思った。


しかし、同時にまみの顔も浮かんでいた。


彼女とは、次にいつ会えるか決まっていない。


ひとみとは、また会えるかもしれない。


健太は、どちらかを急いで選ぶ必要はないと思った。


ただし、曖昧な関係を長引かせて、二人の気持ちを都合よく利用することはしたくない。


それだけは忘れないようにしようと思った。


     *


その夜。


まみからメッセージが届いた。


『こんばんは。来週、少し相談したいことがあるのですが、会えますか?』


健太は返信した。


『大丈夫ですよ。何かありましたか?』


『直接お話ししたいです』


健太はスマートフォンを見つめた。


相談。


その言葉が気になった。


何か困ったことがあったのだろうか。


それとも、自分との関係について話したいのだろうか。


期待と不安が入り混じる。


健太は、以前の自分ならすぐに悪い想像をしていたことに気づいた。


そして、返信を待つことにした。


まみから届いた最後のメッセージは、短かった。


『実は、元夫のことで少し問題が起きました』


健太の表情が変わった。


彼女の過去は、まだ終わっていなかった。


そして、その問題は、健太が想像していたよりも現実的で重いものだった。

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