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『性欲と肉体のナイトゲーム』  作者: こうた
第5章 41歳の女性が教えてくれない答え

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84/110

第84話 二人の女性の間で

九月十九日、日曜日。


大野健太は、スマートフォンを手にしたまま考え込んでいた。


画面には、マッチングアプリで新しく知り合った佐藤ひとみからのメッセージが表示されている。


『はじめまして。プロフィールを見て、野球が好きなところに興味を持ちました。私もスポーツ観戦が好きです』


三十五歳。


旅行や食べ歩きが趣味で、将来を考えられる相手を探しているという。


一方、健太には佐藤まみがいる。


まだ二回しか会っていない。


恋人でもない。


それでも、まみとはもう一度会いたいと思っていた。


(ひとみさんとも話してみてもいいんかな)


健太は、以前の自分なら迷わず返信していただろうと思った。


しかし、今は違う。


まみとの関係を大切にしたい気持ちがある。


だからといって、交際していない相手に対して、ほかの女性との出会いをすべて断つ必要があるのか。


答えは出なかった。


     *


午後六時。


健太は、姉の真紀に電話をした。


「ちょっと相談があるんやけど」


「また恋愛?」


「そうや」


真紀は笑った。


「今度は何?」


「マッチングアプリで別の女性からメッセージが来たんや。今、会ってる女性もいるんやけど、どうしたらいいと思う?」


「付き合ってるん?」


「いや、まだ二回会っただけ」


「じゃあ、自由やろ」


「でも、なんか悪い気がして」


真紀は少し間を置いて答えた。


「お前がまみさんと交際する約束をしてるなら別やけど、そうじゃないなら、ほかの人と話すこと自体は悪くないと思うで」


「そうなんかな」


「ただし、二人に同時に特別なことを言ったり、付き合ってるような態度を取ったりするのは違うやろ」


「それは分かってる」


「それに、お前自身が何を求めてるのか考えたら?」


「結婚したいし、恋人もほしい」


「それだけ?」


健太は黙った。


「誰かに必要とされたいとか、寂しくないようにしたいとか、そういう気持ちもあるんちゃう?」


その言葉に、健太はすぐには返事ができなかった。


     *


九月二十日、月曜日。


仕事の休憩時間。


健太は、ひとみに返信した。


『はじめまして。メッセージありがとうございます。野球は今も草野球を続けています。スポーツ観戦も好きなんですか?』


数分後、返事が届いた。


『はい。野球もサッカーも見ます。自分で運動するのは苦手ですけど』


そこから会話が始まった。


ひとみは大阪市内で事務職をしており、休日には友人と食事に行ったり、日帰り旅行を楽しんだりしているという。


『健太さんは休日、何をしていますか?』


『草野球が多いですね。あとは家でゆっくりしたり、たまに出かけたりします』


『健康的でいいですね。私は最近、運動不足が気になっています』


健太は、少し嬉しくなった。


会話が続く。


質問をしてくれる。

返信も早い。

話題も自然に広がる。


まみとのやり取りとは、また違った楽しさがあった。


健太は、自分が女性と普通に会話できていることに、少し自信を持ち始めていた。


     *


九月二十二日、水曜日。


まみからメッセージが届いた。


『こんばんは。今週末、少し時間が取れそうなのですが、よかったらお茶しませんか?』


健太はすぐに返信した。


『ぜひお願いします』


その後、日曜日の午後に会う約束が決まった。


健太は嬉しかった。


しかし、ひとみとのやり取りも続いている。


どちらかを選ばなければならないような気持ちになり、落ち着かなかった。


その夜、健太は野球仲間の藤井に相談した。


「二人の女性と連絡取ってるんやけど、これってどうなんやろ?」


藤井は少し笑った。


「付き合ってないなら、連絡を取ること自体は問題ないんちゃう?」


「でも、どっちかに失礼な気がして」


「失礼かどうかは、相手に何を伝えてるかによるやろ」


「どういうこと?」


「まみさんには、付き合うって約束してないんやろ?」


「してない」


「ひとみさんにも、ほかに誰とも会ってないなんて言ってないんやろ?」


「言ってない」


「なら、今の段階で自分を責める必要はないと思う。ただ、どちらかと真剣に付き合うことになったら、曖昧にしたまま二人を引っ張るなよ」


健太はうなずいた。


「それに、お前は女性と知り合うと、すぐに将来まで考える癖がある」


「そうかな」


「そうや。まだ二回しか会ってない人と、メッセージをしている人やろ。まずは相手を知ることや」


藤井の言葉は、健太の胸に残った。


     *


九月二十六日、日曜日。


午後二時。


健太は、まみと駅前のカフェで待ち合わせた。


「こんにちは」


「こんにちは。今日はありがとうございます」


二人は店内に入り、窓際の席に座った。


「最近、どうですか?」


まみが尋ねた。


「仕事は普通ですね。野球も続けてます」


「そういえば、前に試合があるって言ってましたね」


「はい。来週も試合があります」


「頑張ってください」


何気ない会話が続く。


その後、まみが少し真剣な表情になった。


「健太さん、一つ聞いてもいいですか?」


「はい」


「今、ほかにやり取りしている女性はいますか?」


健太は驚いた。


一瞬、嘘をつこうかと思った。


しかし、すぐに考え直した。


「います。マッチングアプリで、最近メッセージを始めた人がいます」


まみは静かにうなずいた。


「そうなんですね」


「まだ会ってはいません。まみさんとは、これからも会って話したいと思っています」


「ありがとうございます。でも、私もまだ健太さんのことを知っている途中ですから」


まみは微笑んだ。


「私も、今すぐ誰か一人に決められる状況ではありません」


「そうなんですね」


「ただ、もしお互いに真剣に考えるようになったら、そのときはきちんと話したいです」


健太はうなずいた。


「俺もそう思います」


     *


帰り道。


健太は、まみと駅まで歩いた。


別れ際、彼女が言った。


「今日は正直に話してくれてありがとうございました」


「隠すことではないと思ったので」


「そうですね」


まみは少し笑った。


「また会いましょう」


「はい」


健太は、彼女の後ろ姿を見送った。


以前なら、別れ際の言葉だけで期待を膨らませていたかもしれない。


今は、少し違う。


彼女の気持ちを勝手に決めつけず、自分の気持ちも誤魔化さない。


それが、今できることだった。


帰宅後、ひとみからメッセージが届いた。


『もしよかったら、今度お茶でもしませんか?』


健太は画面を見つめた。


新しい出会い。


そして、もう一度会いたいと思っている女性。


二つの可能性が、目の前にあった。


健太は返信画面を開いた。


しかし、送信ボタンを押す前に、ふと思った。


(俺は、誰かに選ばれたいだけなんじゃないか)


その疑問は、すぐには消えなかった。

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