第22話 経験者は語る。ただし、正解とは限らない
七月十八日、土曜日。
大阪の空は、朝から蒸し暑かった。
新型コロナウイルスの影響で、以前のように気軽に集まることが難しくなっていた。それでも、ドリーム・エース・ナインの男たちは、久しぶりに顔を合わせることになった。
場所は、いつもの大衆食堂「まる福」。
テーブルの上には、唐揚げ定食、焼きそば、豚の生姜焼き、そして誰が注文したのか分からない大盛りのカツ丼が並んでいる。
「おい、石田。お前、また大盛りか」
大野健太が向かい側の男を見た。
石田雄二は、箸を持ったまま顔を上げた。
「何や。食べたらあかんのか」
「いや、先週も大盛り食うてたやろ」
「先週は先週、今日は今日や」
「その理屈でいったら、お前、一生大盛りやんけ」
「せやから何やねん。食べることは生きることや」
「名言みたいに言うな!」
テーブルに笑い声が広がった。
田村剛が、手を叩いた。
「はいはい、食べるのはええけど、今日は大事な話があるんや」
「また作戦会議か?」
森川信也が面倒くさそうに言った。
「当たり前や。俺らは今、人生を変えようとしてるんやぞ」
「人生変える前に、森川の体重を変えたほうがええんちゃうか」
中村拓郎が茶化した。
「誰が太った言うた!」
「誰も太ったとは言うてへん。体重を変えたほうがええと言うただけや」
「それを太った言うんや!」
また笑いが起きた。
健太も笑っていた。
こうしていると、高校時代に戻ったような気分になる。
ただし、あの頃と違うのは、全員が三十代半ばになり、仕事や家族、金銭、健康といった現実を抱えていることだった。
そして、もう一つ。
彼らは今、全員で恋愛を何とかしようとしていた。
もっとも、その方法については、誰一人として確かな答えを持っていなかった。
*
「ほな、始めるで」
田村がスマートフォンをテーブルに置いた。
「前回の目標は覚えてるな?」
「女性と飯を食う」
森川が即答した。
「正確には、年末までに、相手の気持ちや都合を尊重しながら、女性と食事に行くことや」
田村が訂正する。
「何やねん、その細かい条件。食事くらい気軽に行かせてくれや」
岡本修が不満そうに言った。
「その気軽さで失敗してきたから、今こうして集まってるんやろ」
藤井直樹が笑った。
岡本は口をつぐんだ。
「今日は藤井に話してもらう。こいつは俺らの中では、比較的、女性と付き合った経験があるからな」
「比較的って何や。俺を何やと思ってんねん」
「恋愛経験者」
「そのまんまやないか!」
田村が手を挙げた。
「藤井、頼むわ」
「分かった、分かった」
藤井は水を飲んでから、全員を見回した。
「まず聞くけど、お前ら、恋愛経験がある男って、どんな男やと思う?」
「彼女がおる男」
石田が答えた。
「まあ、それも一つやな」
「女の扱いがうまい男やろ」
森川が続いた。
「それも違うとは言わんけど、必ずしもそうやない」
「何やねん。もったいぶらんと答えろや」
中村が急かした。
藤井は苦笑した。
「俺な、これまで何人かの女性と付き合ったことがある」
「知っとるわ!」
「高校のときの彼女もおったし、社会人になってから付き合った人もおる。デートもしたし、旅行にも行ったことがある」
男たちは、それぞれの反応を見せた。
羨ましそうな顔をする者。
興味深そうに聞く者。
明らかに面白くなさそうな顔をする者。
健太は黙って藤井を見ていた。
自分には、一度も経験のない話だった。
「でもな」
藤井は続けた。
「付き合ったことがあるからって、相手の気持ちが分かるようになるわけやない」
「何でや?」
田村が尋ねた。
「俺も、付き合ってた頃は、自分では相手のことを分かってるつもりやった。でも、今考えたら、分かってへんかったことが多い」
「例えば?」
「相手が疲れてるときに、何で元気がないんやって聞いたりな。俺は心配してるつもりやった。でも、相手からしたら、疲れてる理由をいちいち説明するのもしんどかったかもしれん」
「それくらい普通にあるやろ」
森川が言った。
「せやな。普通にある。問題は、そのあとや」
「そのあと?」
「相手が『今日は疲れてるから、ゆっくりしたい』って言うたとするやろ。そこで俺は、『せっかく会えたのに』って思ってしまうことがあった」
藤井は、少し苦い顔をした。
「相手が休みたいと言うてるのに、自分が会いたい気持ちを優先してたんや。相手のために会いに行ってるつもりで、実際には自分が会いたかっただけやった」
テーブルの上から、笑い声が消えた。
「……それで別れたんか?」
健太が尋ねた。
「それだけやない。ほかにもいろいろあった。でも、そういう小さいことが積み重なっていくんやろな」
藤井は肩をすくめた。
「俺は恋愛経験がある。けど、恋愛がうまいかと言われたら、自信はない」
その言葉に、健太は少し驚いた。
藤井は、いつも明るかった。
女性と自然に話せる。
冗談も言える。
連絡先を交換することにも、食事に誘うことにも、それほど抵抗がない。
健太から見れば、恋愛に関する悩みなど、少ない人間に思えていた。
しかし、藤井にも失敗があった。
それも、健太が想像していたような、単純な失敗ではなかった。
*
「ほな、質問や」
田村が身を乗り出した。
「女性と付き合うには、何が一番大事なんや?」
「いきなり正解を聞くなや」
藤井が笑った。
「経験者やろ。教えろや」
「経験者でも分からんことはあるって、今、話したとこやろ」
「それでは作戦会議にならんやないか!」
「お前、恋愛を野球の作戦会議と同じに考えてへんか?」
藤井の言葉に、田村は黙った。
健太は、そのやり取りを聞きながら考えていた。
野球なら、作戦を立てられる。
相手の投手の癖を調べる。
打順を考える。
守備位置を決める。
練習を繰り返せば、少しずつ上達する。
しかし、恋愛では、相手も自分と同じように考え、感じ、行動する。
こちらが正しいと思った方法でも、相手には合わないことがある。
こちらが喜ばせようとしてしたことでも、相手が望んでいなければ、負担になることもある。
「健太はどう思う?」
突然、藤井に名前を呼ばれた。
「えっ、俺?」
「そうや。お前は、女性と付き合うには何が大事やと思う?」
健太は腕を組んだ。
正直に言えば、分からない。
清潔感か。
会話力か。
経済力か。
見た目か。
どれも大切なのだろう。
けれど、それだけで恋愛が成立するわけではないことも、最近、少しずつ分かってきた。
「……相手の気持ちを、勝手に決めつけへんことやと思う」
健太が答えた。
藤井はうなずいた。
「そうやな」
「俺、これまで、女性が優しくしてくれたら、自分に気があるんちゃうかって考えてた。でも、そんなこと、本人に聞かな分からへんし……そもそも、相手は普通に接してくれてるだけかもしれん」
「うん」
「あと、自分が何かしてあげたら、相手に喜んでもらえると思ってた。でも、相手が何をしてほしいか聞いてへんかったら、こっちの自己満足になることもあるんやなって」
健太は、そこで言葉を切った。
先日の病院での出来事が、頭に浮かんでいた。
父親が話している途中で、自分が代わりに答えようとしたこと。
医師に、本人が話すのを待つように言われたこと。
あれは、恋愛とは直接関係のない出来事だった。
しかし、根本にあるものは、同じなのかもしれない。
「お前、ちょっとずつ変わってきたな」
藤井が言った。
「いや、まだ全然や。頭で分かってても、実際にできるかは別やし」
「それが分かってるだけでも、前進や」
健太は照れくさくなり、唐揚げに手を伸ばした。
「まあ、食べながら考えようや」
「お前は何でも食べる理由にするな!」
田村の突っ込みに、再び笑い声が起きた。
*
そのとき、森川が腕を組んだまま口を開いた。
「でもな、結局、男は自信がないとあかんと思うねん」
「また始まった」
中村が小さくつぶやいた。
「何や、その顔は」
「いや、森川の自信は、昔の球速の話しかないからな」
「高校時代、俺は百三十キロ近く出してたんやぞ!」
「今は?」
「……今は測ってへん」
「測ってへんのに、近く出してたって言い切るんかい!」
笑いが起きる。
森川は不満そうに鼻を鳴らした。
「野球でも恋愛でも、自信がない男はあかん。堂々としてる男のほうがモテるに決まってる」
「自信と、思い込みは違うんちゃうか」
健太が言った。
森川が、ゆっくりと顔を向けた。
「何やと?」
「いや、ほら。自分に自信を持つんは大事やと思う。でも、相手が自分を好きやって思い込むのは、違うやろ」
「誰もそんなこと言うてへんやろ!」
「いや、今の話からしたら……」
「健太、お前は恋愛経験ゼロやろ。経験もないのに、分かったようなこと言うなや」
その言葉に、健太の胸がちくりと痛んだ。
確かに、自分には経験がない。
付き合ったこともなければ、女性と二人きりで食事に行ったこともない。
そんな自分が、経験者に意見するのは、間違っているのだろうか。
しかし、藤井が口を挟んだ。
「森川、経験があることと、正しいことを言えることは別やで」
「お前まで何やねん!」
「俺も経験はあるけど、失敗してきたって話したやろ。経験したからこそ分かることもある。でも、経験したことを全部正しいと思い込んだら、何も学べへん」
森川は、しばらく黙っていた。
やがて、面白くなさそうに水を飲んだ。
「……まあ、そういう考え方もあるんやろな」
完全に納得したわけではなさそうだった。
それでも、これ以上言い争うことはなかった。
健太は、少しだけほっとした。
自分の経験のなさを指摘されると、やはり悔しい。
しかし、経験がないからこそ、相手の言葉をそのまま受け取らず、自分なりに考えられることもあるのかもしれない。
大切なのは、経験の有無だけではない。
失敗したあと、何を学ぶか。
その違いなのだろう。
*
「ほな、次の議題に移るで」
田村が、ホワイトボード代わりのノートを開いた。
「各自、年末までに女性と食事に行く。そのために、まず何をするかを決めよう」
「お前、ほんまに計画好きやな」
石田が笑った。
「計画もなしに動いて、うまくいくと思うか?」
「計画しても、うまくいってへんやろ」
「うるさい!」
田村は咳払いをした。
「森川は?」
「まずは自分を鍛える。体を絞って、見た目を変える。自信をつけて、女性を誘う」
「ええやん。具体的に何キロ落とすんや?」
「……五キロ」
「いつまでに?」
「年末までに」
「半年近くあるやないか!」
「無理してリバウンドしたら意味ないやろ!」
「それは正論やな」
藤井が笑った。
森川は少し得意そうな顔をした。
「中村は?」
「金を貯める」
「お前、パチンコやめるんか?」
「……それとこれとは別や」
「別ちゃうわ!」
全員が声を上げた。
「何でやねん! パチンコは趣味やろ!」
「趣味に金を使いすぎて、デート代がないって言うてたやないか」
田村に指摘され、中村は顔をしかめた。
「分かった、分かった。月に使う金額を決める」
「それ、守れるんか?」
「……努力する」
「信用できへんなあ」
次々と笑いが起きた。
山本和也は、スマートフォンに何かを入力していた。
「俺は、女性との会話を分析する」
「分析?」
健太が尋ねた。
「どんな話題に反応がいいか、質問の回数と相手の発言時間の割合とか、そういうのを記録して……」
「待て待て。会話をデータにするんか?」
「何が悪い?」
「いや、相手は機械ちゃうで」
藤井が苦笑した。
「傾向を知るのはええと思う。でも、相手が今日は何を話したいかまで、データで決めることはできへんやろ」
山本は、少し考え込んだ。
「……確かに、個人差はあるな」
「個人差だけやない。その日の気分もあるし、仕事で嫌なことがあったかもしれん。会話が弾まへんからって、相手が自分を嫌ってるとは限らん」
「なるほど。状況変数も必要か」
「いや、そういう話ちゃうねん!」
田村が頭を抱えた。
健太は、腹を抱えて笑った。
しかし、笑いながらも、自分にも似たところがあると思った。
女性にどう話しかければいいのか。
何を言えば好かれるのか。
どんな行動をすれば、恋愛に発展するのか。
正解を探してばかりだった。
相手を一人の人間として知るよりも、成功する方法を知りたかった。
それでは、相手が誰であっても、同じような接し方になってしまう。
それは、本当に相手を知ろうとすることなのだろうか。
*
「井上は?」
田村が尋ねた。
井上雅人は、困ったように笑った。
「俺は……頼まれたことを断れるようになりたいかな」
「何や、恋愛と関係あるんか?」
「あると思う。俺、相手に嫌われるのが怖くて、何でも引き受けてしまうねん。仕事でもそうやし、友達の頼みでもそうや」
「それで、しんどくなるんか?」
「うん。しんどいのに、断ったら嫌われると思ってしまう」
井上は、手元のグラスを見つめた。
「でも、何でも引き受けて、あとから不満をためていくのも違うと思う。付き合う相手ができても、同じことをしてしまいそうやし」
健太は、その言葉に耳を傾けた。
自分とは、少し違う。
健太は、相手のために何かをしようとして、相手の気持ちを確認しないことがある。
井上は、相手に嫌われないために、相手の望みを断れない。
どちらも、相手との関係を大切にしているようでいて、実は自分の不安に振り回されているのかもしれない。
「井上、断ることは悪いことちゃうで」
健太は言った。
「相手のことを大切にするんと、自分を犠牲にするんは、違うと思う」
井上が顔を上げた。
「……健太、それ、ええこと言うやん」
「いや、俺も最近、気づいたことやけどな」
「お前ら、何か急に真面目になったな」
石田が唐揚げを頬張りながら言った。
「お前は、もうちょっと自分の健康を大切にせえ」
「健康のためにも食事は大事や!」
「お前の場合、量の問題や!」
また笑いが起きた。
井上も笑った。
少なくとも、この場では、自分の弱さを口にしても、誰かがすぐに否定するわけではなかった。
それは、彼らにとって、意外と大切なことだった。
*
会議が終わりに近づいたころ、藤井が健太に声をかけた。
「健太」
「何や?」
「お前、最近、女性と話すときに気をつけてることあるか?」
健太は少し考えた。
「相手の話を途中で取らんこと。あと、勝手に相手の気持ちを決めつけへんこと」
「それはええな」
「でも、気にしすぎて、何も話せんようになるのも違うと思ってる」
「そうやな」
藤井はうなずいた。
「相手を尊重することと、自分を消すことは違う。自分の気持ちを伝えるのも、相手の話を聞くのも、どっちも必要や」
「……難しいな」
「簡単やったら、俺ら全員、こんなところで作戦会議してへんわ」
藤井が笑った。
健太も笑った。
「藤井は、次に何をするんや?」
「俺か? 俺は、昔付き合ってた人とのことを、もう一回考えてみようと思う」
「元カノ?」
「そう。自分ではうまくやってたつもりやったけど、今考えたら、相手の話をちゃんと聞いてへんかったこともあったんやろな」
「連絡するんか?」
「いや、今さら連絡するつもりはない。相手には相手の生活があるしな。自分が反省したいからって、向こうを巻き込む必要はないやろ」
健太は、はっとした。
自分が何かを学んだとしても、その確認のために、相手を利用していいわけではない。
謝りたいから。
もう一度話したいから。
自分の気持ちを整理したいから。
そうした理由があっても、相手がそれを望んでいるとは限らない。
藤井は、経験者だった。
けれど、経験者だからこそ、何でもできるわけではない。
むしろ、経験したからこそ、やってはいけないことが分かる場合もあるのだろう。
「藤井」
「ん?」
「俺、まだ全然分かってへんけど……今までみたいに、何でも自分の都合で考えるのは、やめたいと思う」
藤井は、少しだけ表情を和らげた。
「それでええんちゃうか。最初から全部できる人間なんか、おらんやろ」
「せやな」
「ただし、分かったつもりになるなよ」
「……それ、今日何回も言われてる気がするわ」
「大事なことやからな」
*
店を出ると、空には薄い雲が広がっていた。
雨は降っていないが、空気は相変わらず重かった。
男たちは、駅へ向かう道を歩いていた。
森川は、年末までに五キロ痩せると宣言していた。
中村は、パチンコに使う金額を決めると言っていた。
山本は、会話を分析する方法を考え直すらしい。
井上は、無理な頼みを断る練習をするという。
田村は、女性を食事に誘う前に、まず職場での会話を増やすことにした。
それぞれの目標は違っていた。
しかし、全員に共通していることが一つあった。
これまで、自分のやり方を変えようとしてこなかったことだ。
うまくいかなければ、相手が悪いと思う。
自分に魅力がないからだと決めつける。
経験がないから無理だと諦める。
あるいは、過去にうまくいった方法にしがみつく。
彼らは、それぞれ違う理由で、同じ場所に立ち止まっていた。
「ほな、次回までに一つずつ実行すること。ええな?」
田村が念を押した。
「分かった、分かった」
森川が適当に返事をする。
「お前、絶対忘れるやろ」
「忘れへんわ!」
「ほな、明日、体重計に乗って写真送れ」
「何でやねん!」
笑い声が、夏の商店街に響いた。
健太は、その声を聞きながら、少しだけ気持ちが軽くなった。
自分だけが、何も知らないわけではない。
自分だけが、うまくいっていないわけでもない。
経験があっても、失敗する。
結婚していても、相手の気持ちを理解できないことがある。
長く付き合っていても、相手を自分の思いどおりにしようとしてしまうことがある。
恋愛に正解があるとすれば、それは誰かから教えてもらえる万能の方法ではないのだろう。
相手の気持ちを聞き、自分の気持ちも伝え、うまくいかなかったときには、自分の行動を振り返る。
その繰り返しなのかもしれない。
健太は、ポケットからスマートフォンを取り出した。
ノートのメモ欄に、新しい一文を打ち込んだ。
『経験がないことを恥じるより、経験がないから分からないことを、分からないままにしない』
入力を終え、画面を閉じた。
まだ、女性と二人きりで食事をしたことすらない。
恋愛のスタートラインに立てたのかどうかも、分からない。
それでも、少しずつ考え方は変わり始めていた。
ただし、頭で理解することと、実際に行動できることは違う。
その日の夕方、健太のスマートフォンに、地域の買い物支援ボランティアの連絡が届いた。
次回の活動日についての案内だった。
健太は、参加するかどうかを考えた。
そこには、以前から気になっている女性、佐藤真紀が来るかもしれない。
そう思った瞬間、胸が少し弾んだ。
そして、すぐに自分に問いかけた。
自分は、本当に誰かの役に立ちたいのか。
それとも、真紀に会いたいだけなのか。
答えは、簡単には出なかった。
けれど、今度は、その気持ちをごまかしたまま行動するのはやめようと思った。
誰かに会いたいと思うこと自体は、悪いことではない。
問題は、その気持ちを理由に、相手に何かを求めてしまうことだ。
健太は、参加の返事を送った。
そして、スマートフォンを机の上に置いた。
恋愛強化計画は、まだ始まったばかりだった。
彼らが本当に変わるためには、作戦会議で正しいことを言うだけでは足りない。
自分の弱さと向き合い、現実の人間関係の中で、何度も失敗しながら学ぶ必要がある。
そして健太には、まだ知らないことがあった。
人に親切にすること。
人に好かれたいと思うこと。
誰かを好きになること。
その三つは、似ているようで、まったく同じではない。
次に真紀と会ったとき、健太はその違いを、もう一度試されることになる。




