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『性欲と肉体のナイトゲーム』  作者: こうた
第7章 ゴルフ場の女神と高級クラブ

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第114話 無料相談の、その先に

五月最後の日曜日。


健太は朝から自分の部屋で、結婚相談所の資料を広げていた。


入会金、月会費、お見合い料、成婚料。


数字を何度見直しても、安くはならない。


「やっぱり、結構かかるな……」


年収は三百万円前後。


実家暮らしなので、家賃はかからない。それでも自由に使えるお金は限られていた。


草野球の会費、ゴルフの練習代、飲み会、服代。


そこに婚活費用が加われば、貯金どころではなくなる。


それでも健太は、結婚相談所に期待していた。


マッチングアプリでは、女性から返信が来なくなることが多い。


合コンでは、会話が盛り上がっても次につながらない。


街コンに参加しても、若い男性や会話の上手な男性に女性の注目が集まる。


ならば、最初から結婚を目的にしている女性が集まる場所なら、話が違うのではないか。


健太はそう考えていた。


「結婚したい人同士なら、話は早いやろ」


その日の午後、健太は母の美代子に声をかけられた。


「健太、お昼ご飯どうする?」


「あとで食べる」


「最近、休みの日も出かけてばかりだね」


「草野球やら婚活やら、いろいろあるねん」


「婚活もいいけど、ちゃんと生活のことも考えなさいよ」


健太は資料を机に伏せた。


「分かってるって」


「お金は大丈夫なの?」


「大丈夫や」


本当は大丈夫ではなかった。


しかし、心配されると、余計に何も話したくなくなる。


美代子はそれ以上追及しなかった。


「困ったら相談してね」


「うん」


健太は短く答えた。


夕方、健太は草野球の練習に出かけた。


グラウンドには田村、森川、石田、藤井たちが集まっていた。


「おう、健太。今日は遅かったな」


田村が声をかける。


「ちょっと用事や」


「婚活か?」


藤井が笑った。


「何で分かるねん」


「最近、健太の休日はそればっかりやからな」


「悪いか」


「悪くないよ。ただ、無理はするなよ」


健太は苦笑した。


練習が始まると、いつものようにノックを受けた。


ボールを追い、捕球し、送球する。


その時間だけは、余計なことを考えずに済んだ。


練習後、石田がコンビニの袋を持ってきた。


「おにぎり買ってきたぞ。食うか?」


「ありがとう」


「最近、飯ちゃんと食ってるか?」


「食ってるわ」


「ならええけど」


健太はおにぎりを受け取った。


仲間たちは結婚したり、家庭を持ったりし始めている。


それでも、グラウンドに来れば以前と同じように接してくれる。


健太にとって、ここは大切な場所だった。


帰り際、藤井が声をかけた。


「健太、結婚相談所に入るんか?」


「まだ分からん。料金が高いねん」


「そりゃそうだろうな」


「でも、アプリより真剣な出会いがあるやろ」


「あるかもしれない。でも、入会したから結婚できるわけじゃないぞ」


「分かってる」


「相手にも希望や生活があるからな。自分の希望だけじゃなくて、相手とどう暮らしていくかも考えないと」


健太は黙った。


「まあ、俺が言うことでもないけどな」


藤井は笑って帰っていった。


帰宅後、健太は再び結婚相談所の資料を開いた。


そして、無料相談で聞いた説明を思い出した。


相手に何を求めるのか。


自分は何を提供できるのか。


その質問に、健太はまだ答えられなかった。


ただ、結婚したい。


誰かと一緒に暮らしたい。


自分を選んでくれる女性がほしい。


それだけは強く思っていた。


スマートフォンを開くと、マッチングアプリから通知が届いていた。


新しい「いいね」ではなかった。


運営からのお知らせだった。


健太は少しだけ期待した自分に苦笑した。


「通知で喜んでる場合ちゃうな」


そう言いながら、アプリを開いた。


新しい女性を検索する。


プロフィール写真を眺める。


年齢を確認する。


趣味を確認する。


そして、また「いいね」を送る。


結婚相談所の資料は、机の上に置かれたままだった。


無料相談の先に進むには、お金も覚悟も必要だった。


健太には、そのどちらもまだ足りなかった。


それでも、女性を探す手だけは止まらなかった。


結婚したいという夢は、今日も健太の財布より大きかった。

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