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『性欲と肉体のナイトゲーム』  作者: こうた
第7章 ゴルフ場の女神と高級クラブ

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第105話 映画館の約束

2022年4月3日。


日曜日の午後、健太は駅前の映画館に向かっていた。


待ち合わせは午後二時。


約束の時間までまだ三十分もある。


それでも健太は、映画館の入口付近を何度も行き来していた。


服装は、紺色のジャケットに白いシャツ、黒いパンツ。


普段の休日より少しだけ気を遣った格好だった。


(変じゃないよな……)


スマートフォンを取り出し、鏡代わりに画面を確認する。


そのとき、美咲からメッセージが届いた。


『着きました。映画館の入口にいます』


健太は慌てて周囲を見回した。


入口の近くに、美咲が立っていた。


「こんにちは」


「こんにちは。お待たせしました」


「いえ、私も今来たところです」


美咲は薄いベージュのコートを着ていた。


髪を整え、落ち着いた雰囲気の服装だった。


「今日はありがとうございます」


「こちらこそ。楽しみにしていました」


二人はチケットを購入し、上映時間まで少し時間があったため、近くのカフェに入った。


「健太さん、映画館ってよく来るんですか?」


「昔はあまり来なかったですね。最近は気になる作品があれば観に行くようになりました」


「私もそんな感じです。家で映画を観るのも好きですけど、映画館の雰囲気も好きなんですよ」


「分かります。暗くなって、始まる前の音楽が流れると、ちょっとわくわくしますよね」


美咲は笑った。


「そういうところ、いいですよね」


その後も二人は映画の話を続けた。


好きなジャンル、苦手な展開、印象に残った作品。


健太は普段より自然に話せている気がした。


やがて上映時間になり、二人は劇場に入った。


映画は、ある家族の再生を描いた作品だった。


主人公が過去の失敗と向き合い、大切な人との関係を修復しようとする物語だった。


健太は終盤、主人公が相手に謝る場面で少し胸が苦しくなった。


自分もこれまで、相手の気持ちを考えずに行動してきたことがある。


謝れば済むと思っていたこともあった。


映画が終わり、二人は劇場を出た。


「どうでした?」


美咲が尋ねる。


「思っていたより良かったです。最後の場面が印象に残りました」


「私もです。あの主人公、最初は自分のことばかり考えていましたよね」


「そうですね。でも、最後は相手の気持ちを聞こうとしていた」


「人間関係って、相手のことを分かったつもりになるのが一番怖いのかもしれませんね」


健太はその言葉に頷いた。


「俺も、そういうところがあると思います」


美咲は少し驚いたように健太を見た。


「自分でそう思えるのは、いいことだと思いますよ」


映画館を出た後、二人は近くの喫茶店に入った。


コーヒーを飲みながら、映画の感想を話す。


会話は途切れることなく続いた。


やがて美咲が、仕事の話を始めた。


「私、仕事では周りに気を遣いすぎるところがあるんです」


「そうなんですか?」


「頼まれると断れなくて。自分の仕事が終わっていなくても引き受けてしまうことがあって」


「それは大変ですね」


「最近は、ちゃんと断ることも覚えないといけないなと思っています」


健太は少し考えてから答えた。


「俺も仕事でミスをして、確認することの大切さを改めて感じています。自分ではできているつもりでも、できていないことってありますよね」


「ありますね」


美咲は静かに頷いた。


「でも、失敗した後にどうするかが大切なんだと思います」


「そうですね」


その言葉は、健太にも当てはまっていた。


女性との関係でも、仕事でも、自分の思い込みを見直すことが必要だった。


帰り際、健太は少し迷った。


もう一度誘ってみたい。


だが、相手がどう思っているのか分からない。


それでも、気持ちを伝えなければ何も始まらない。


「美咲さん、今日は本当に楽しかったです。また一緒に出かけませんか?」


美咲はすぐには答えず、少し考えた。


「はい。また予定が合えば、ぜひ」


「ありがとうございます」


「次は私が観たい映画に付き合ってください」


「もちろんです」


駅で別れた後、健太は帰りの電車に乗った。


スマートフォンには、美咲からメッセージが届いていた。


『今日はありがとうございました。映画もお話も楽しかったです。次の映画も楽しみにしています』


健太は嬉しくなった。


しかし、彼女が自分を恋愛対象として見ているかどうかは、まだ分からない。


それでも、次に会う約束ができたことは素直に喜んでよかった。


その日の夜、ドリーム・エース・ナインのグループに田村から連絡が入った。


『来週、ゴルフ練習場に行く。参加できる人は返信してくれ』


健太は参加すると返信した。


すると、松田から個別にメッセージが届いた。


『健太、そろそろ自分のクラブを買わへんか? 初心者セットでもええけど、長く続けるなら少し良いものを買うのもありやで』


健太はネットでゴルフクラブの価格を調べた。


安いものでも数万円。


有名メーカーのセットになると、十万円を超えるものもあった。


(趣味に十万円か……)


家計のことも考えなければならない。


健太は購入を急がないことにした。


そのとき、スマートフォンにもう一通メッセージが届いた。


差出人は美咲だった。


『そういえば、健太さんはゴルフを始めたんですよね? 私も昔少しだけやっていました』


健太は驚いた。


『そうなんですか? まだ初心者ですが、最近練習しています』


『機会があれば、ゴルフの話も聞かせてください』


健太は返信した。


『ぜひ。まだ教えられることは何もありませんけど』


送信してから、健太は小さく笑った。


美咲との関係は、少しずつ続いている。


一方で、ゴルフの世界にも新しい出会いがある。


ただし、健太にはまだ分かっていなかった。


人と知り合うことと、誰かに選ばれることは、まったく別のことだという現実を。

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