◆第76話:煽りの美学と「おやくそく」の旋律
『――お待たせいたしました! 全校パーティ対抗武道会、準決勝第1試合!!』
午後の眩しい陽光が降り注ぐメインスタジアム。アナウンスの絶叫とともに、超満員の客席から割れんばかりの歓声が地鳴りのように響き渡った。
特別観覧席では国王とスフィル王女が身を乗り出して視線を注ぎ、スタジアムの頂点に立つ石柱の上では、ネロが「なー(いよいよだな)」と尾をゆったり振っている。
『破竹の勢いで勝ち上がってきた旋風の1・2年混合『ヴォイド・シフル』! 対するは、公爵家の威信を背負う鉄壁の精鋭『グランド・デューク』!! 両者、入場――ッ!!』
リングの中央で向かい合う二つのチーム。
豪奢なドレス甲冑に身を包んだエリザベート先輩が、扇子をバシッと優雅に開き、高らかな声で口上を述べ始めた。
「ほほほ! よくぞここまで辿り着きましたわ、雑種たち! ですが、あなた方の悪あがきもここまでですわ! この私率いる『グランド・デューク』の完璧なる陣形と高貴なる魔術の前に、ひれ伏すがよろしいわ!」
ドリルツインテールを誇らしげに揺らし、圧倒的なドヤ顔を決めるエリザベート先輩。
その圧巻の佇まいに観客席からは「エリザベート様ー!」「お美しく高貴なお姿ー!」と大きな黄色い声援が飛ぶ。
対する俺は、ポケットに両手を突っこんだまま、フッと鼻で笑って一歩前に出た。
「へいへい、相変わらず大層なお口ぶりで。まあ、本戦まで来られたのはアンタのそのご立派な『口上』のおかげかもな」
「なっ……!? な、なんですって……!? 口上のおかげですって!?」
エリザベート先輩がピクッと美眉を跳ね上げ、扇子をワナワナと震わせる。
「私たちが本戦に勝ち上がってきたのは、我が公爵家に代々伝わる厳格な戦術指導と、団員たちの弛まぬ鍛錬の成果ですわ! あなた方のような行き当たりばったりの野蛮な戦いとは次元が違いますの!」
「へぇー、戦術指導ねぇ。でもさ……」
俺はあくびを噛み殺すフリをしながら、ニヤニヤと不敵な笑みを深めた。
「さっきの試合も見てたけどさ。結局のところ、後ろで凄そうな指示を出してるだけで、実際に泥臭く戦ってるのは周りの3人じゃないか?」
「な、なんですと……!?」
「だってそうだろう? 魔法騎士のゴードンさんが命がけでガードして、後ろの優秀な魔法士ふたりがすげえ連携魔法を打つ。……あれ? アンタ、ただ腕組んで高笑いしてただけじゃね?」
「~~~っ!? し、指揮官の役割というものを理解していませんのね!? 戦場において、全体を俯瞰して的確な命を下すことこそが最も重要な仕事ですわ!」
必死に反論するエリザベート先輩。だが俺は、さらに煽りのギアを一段上げた。
「まあまあ、そう熱くなるなよ。要するにさ――ま、あんたは後ろで指示出して強い3人が戦うだけなんだろうけどな。自分じゃなんも出来ないんだろ、どうせ?」
「――――――――っっッ!!!???」
【条件達成:『高慢な指揮官キャラへの直接的な挑発&プライド刺激』】
【スキル『おやくそく』発動――確定イベント:『総大将の頭の血が上った暴走&陣形無視の単独突出』】
俺の煽り文句が完璧な角度で突き刺さった瞬間、エリザベート先輩の額に青筋がバキバキと浮かび上がった。
「な、ななな……なんですってぇぇぇぇーっ!? この無礼者が!! 私が何も出来ないだと……!? 言わせておけば調子に乗りおってからにーっ!」
「えっ、エリザベート様!? 落ち着いてください!」「まだ試合開始の合図が――!?」
後ろに控えていた重騎士ゴードンと二人の魔法士が大慌てで制止の声をあげるが、すでに頭に血が上りきったドリルツインテ先輩の耳には何も届いていなかった。
「黙りなさい! 見ていなさい、この手で直々にその生意気な口を縫い合わせて、二度とそんなふざけた口が叩けないようにして差し上げますわーーーっ!!」
【おやくそく】の波動が完璧に作用し、本来なら指示役に徹するはずだった敵の絶対的総大将が、杖を振りかざして自ら先陣を切ろうとする大暴走を引き起こしたのだった!
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