◆第61話:予選1回戦、開幕の一撃
「うぅ……っ、心臓が口から飛び出そうです……っ!」
予選第1会場の控え室を出た瞬間、大歓声の渦に包まれてウーが杖を両手でギュッと抱きしめ、生まれたての小鹿のように膝をガクガクと震わせた。
「大丈夫だってウー、深呼吸、深呼吸!」
「は、はい……ふぅぅ……はぁぁ……っ!」
緊張でガチガチになっているウーの肩を叩いて宥めていると、隣のリアンが「ニシシ」と不敵で頼もしい笑みを浮かべた。
「ねえ二人とも! まずは私がチャチャっと片付けてくるよ! 二人は後ろで見てて!」
「えっ、リアン先輩ひとりで……!?」
「うん! だって予選の最初から『ヴォイド・シフル』の真の力を全部見せる必要なんてないでしょ?」
リアンはパチンと可愛らしくウィンクしてみせると、背中の大剣の柄に手をかけ、堂々とした足取りで特設リングの中央へと歩み出て行った。
対する相手は、いかにもガタイのいい2年生の上級生男子3人グループだ。
先頭に立つ大柄な斧使いの男が、リアンを上から下へと舐めまわすように見下ろし、下品な高笑いをあげた。
「ギャハハハ! なんだあ? Fランクの貧乏パーティかと思ったら、出てきたのは女子供ひとりかよ! ナメられたもんだな!」
「おいおい、そんなピチピチの美少女剣士ちゃんを傷つけちゃかわいそうだろー?」
「俺たちに色目でも使って降参すれば、優しく降参扱いにしてやるぜぇーっ!」
威勢よく下劣な捨て台詞を吐き捨て、ゲラゲラと下品に嘲笑うモブ男たち。
(……えっ!? こいつら、リアンのこと知らないの……!? 『剣聖』のユニークスキル持ちで学院トップクラスの有名人だぞ!? どんだけ情報収集不足なんだよ……!!)
完璧すぎる『かませ犬』のムーヴと致命的な無知ぶりに、俺は心の中で激しく突っ込んだ。
俺が頭を抱えている間に、審判の鳴らす合図のベルが大音量で鳴り響いた。
『――予選第1回戦、試合開始!!』
「ハッ、泣いて謝っても遅――」
男が斧を振りかざそうとした、その一瞬。
バチィッ!!
「え――」
観客の誰もが視線を追うことすらできなかった。
リングの中央からリアンの姿が掻き消え、次の瞬間には――すでに三人組の背後で、リアンが静かに剣を鞘に納める音が響いていた。
カチャン。
「……『風斬』」
刹那、猛烈な突風がリング上を吹き荒れた。
「「「ぶへぇぇぇーーーっ!?」」」
ドガガガガッ!!と凄まじい風圧の衝撃波が三人を直撃し、防御体制すら取れなかったモブ男たちは一瞬で特設リングの外へと吹っ飛ばされ、壁に激突して白目を剥いた。
『ひ、一瞬――っ!! 勝者、パーティ『ヴォイド・シフル』!!』
審判の呆然としたアナウンスが響き渡り、一瞬の静寂の後、会場全体が割れんばかりの歓声に包まれた。
「ふぅ、余裕余裕♪」
くるりと振り向き、ウインクしながらVサインを決めるリアン。
「「……すごすぎる……」」
俺とウーは、開いた口が塞がらないまま、頼もしすぎるエースの背中を見つめるのだった。
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