◆第59話:武道会前夜と、意外な観客
「うわぁ……すごい熱気ですね……!」
放課後、俺たちは特訓の最終調整を終えて、明日から『全校パーティ対抗武道会』の舞台となる学院の巨大大闘技場を見下ろす観覧席にやってきていた。
明日の開幕に向けて、会場の準備はまさに最終段階を迎えている。
広大なグラウンドには魔法で補強された強固な特設リングが幾つも並び、色鮮やかな各派閥の旗や大会の横断幕が夕風にはためいていた。設営を進める職員や生徒たちの威勢の良い声が飛び交い、校内全体が祭りの前夜のような独特な緊張感と興奮に包まれている。明日から三日間にわたって繰り広げられる熱戦の準備が、着々と整えられていた。
「いよいよ明日だな……! なんだか胸がソワソワしてきたぞ」
俺が手すりに寄りかかりながら呟くと、隣に立つリアンが腕を組んでフフンと可愛らしく胸を張った。
「ふふっ、盛り上がってきたね! この武道会、ただの学院行事と思ったら大間違いだよ? 学院内だけじゃなくて、外部からの『来賓』も山ほど来るんだからねー!」
「えっ……ら、来賓ですか!?」
ウーが小さく跳ね上がって目を丸くした。
「そうだよ! 高位の貴族様たちが我が子の応援……という体で観に来たり、若くて優秀な生徒を自分の家にスカウトするために青田買いしに来るんだって。それに……王都の騎士団や魔法師団の幹部の人たちも、金の卵を探しに公式に視察に来てるみたいだよー!」
「き、騎士団に魔法師団……!? そんな凄い人たちに見られるんですか……っ!?」
想像以上の大規模イベントだと知り、ウーは顔を真っ白にしてオドオドと自分の杖を抱きしめた。Fランク冒険者や特待生からすれば、雲の上の権力者ばかりだ。
(なるほどな……『貴族のスカウト』に『騎士団・魔法師団の視察』か。これまたバトル物ラノベの王道お約束要素がてんこ盛りだな……!)
俺が一人で「ふむふむ」と深く頷いていると、頭の上のネロが「なー(何を気取ってるんだ)」と呆れたように俺の頭を前足でペシペシと叩いてきた。
「あはは、ゼロさんったら! でも大丈夫ですよ、ウーちゃん! 来賓が誰だろうと、偉い貴族様がどれだけいようと関係ないさ。俺たちは、俺たちがこの一週間必死に練習してきた成果と、『ヴォイド・シフル』のいいところを全力でぶつけていくだけだ!」
俺がポンとウーの肩を叩いて笑いかけると、ネロも「なー(気楽にいけ)」と気付けのように一口鳴いて見せる。
「ゼロの言う通り! 私たちがやるべきことはたったひとつだけ! あの高飛車ドリル先輩をギャフンと言わせて、最高の勝利を掴むこと!」
リアンがニシシと弾けるような笑顔を見せ、ウーも頬を少し赤らめながら「はい……っ! 私、ゼロさんとリアン先輩についていきます!」と力強く頷いた。
「よし! それじゃあ今夜はうまいもん腹いっぱい食べてスタミナつけて、しっかり寝て明日に備えるぞー!」
「「おーーーーっ!!」」
夕暮れ時の朱色に染まる学院を背に、俺たちは前夜祭と称した大食事会へ向けて、元気に足音を響かせるのだった。
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