◆第53話:ドリル令嬢の要求と、お約束の拒絶
「私のような公爵家の令嬢に飼われる方が、その猫にとっても幸せというものですわ!」
高らかに言い放つエリザベート先輩。
取り巻きの女子生徒たちも「そうですわ!」「公爵家でお世話されるなんて光栄に思いなさい!」と調子を合わせてうなずいている。
「ちょっと待ってください、エリザベート先輩! ネロはゼロの……私たちのパーティの大切な仲間です! いくら公爵家の方でも、そんな勝手な言い分は通りません!」
リアンが俺の前に立ちふさがり、ウーも怒りで頬を膨らませて拳を握りしめた。
「あら、Cランクの剣士さんと……そちらはしがない特待生さんですわね? 平民が私に意見するつもりかしら?」
「くっ……!」
エリザベート先輩はふんと鼻を鳴らすと、リアンたちを押しのけるようにして俺のすぐ目の前まで足を進めた。
そして、極上の笑みを浮かべながらネロに向かって優しく手を差し伸べる。
「さあ、おいでなさい可愛い猫ちゃん。あんなパッとしない男の頭の上なんて捨てて、我がハルトマン公爵家の極上のフカフカクッションと最高級の肉料理に囲まれた暮らしを選びなさいな……♪」
甘い声で呼びかけるエリザベート先輩。
(――はい来た、『おやくそく』展開!)
俺の頭の中で、パチンと静かにフラグが噛み合う音がした。
【条件達成:『高慢な高位貴族令嬢による理不尽なペット強奪(未遂)』】
【スキル『おやくそく』発動――確定イベント:『マスコットによる完全拒絶と赤恥』】
次の瞬間。
「なー(シャーーーーッ!!)」
ネロは差し出されたエリザベート先輩の手を、前足でペシッ!!と威勢よく叩き落とした。
それどころか、プイッと明後日の方向を向いて、露骨に嫌そうな顔で後足で耳の後ろをポリポリと掻き始める。
「「「………………っ!?」」」
静まり返る演習場。
「な……ッ!? て、手を叩き落とされましたわ……!? この私が……っ!?」
エリザベート先輩は差し出した手を叩かれたまま固まり、顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出した。
「ふんっ……! な、なんて礼儀のなっていない野良猫ですの……っ! ですが、その生意気な態度もまた愛らしいですわ! おい、二人とも! 取り押さえなさい!」
「「はい、エリザベート様!」」
しびれを切らしたエリザベート先輩の命令で、取り巻きの二人が両手を広げて俺の頭の上のネロへ飛びかかってきた――その時。
「なーっ!」
ネロが俺の頭の上からフワリと跳び上がると、見事な空中旋回で二人の頭上を素通り。
勢い余った取り巻き二人は、そのままお互い正面衝突してド派手に地面へ転がり倒れた!
「きゃああああっ!?」
「いたたたっ……!」
「なっ……!? 何をやっていますの貴女たち――ひゃんっ!?」
着地点を探したネロが軽やかに降り立ったのは、なんとエリザベート先輩の綺麗に巻かれたドリルツインテールの右側の上だった。
ちょこんとドリル髪の上に乗っかり、何事もなかったかのように「なー♪」と喉を鳴らすネロ。
「ひぃっ!? あ、頭の上に……私の自慢の髪型が……っ!? 降、降りなさい! 降りなさいなーーーっ!」
頭の上のネロを取ろうとして、一人でその場でくるくると目を回しながらパニックになるエリザベート先輩。
「「「あははははははっ!!!」」」
そのあまりにもシュールで面白すぎる光景に、俺とリアン、ウーの三人は腹を抱えて爆笑するのだった。
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