◆第38話:リーダーの指名と、譲れぬ拘り
「ヴ、ヴォイド・シフル……ですか……!?」
周りの冒険者たちが「なんだその大層な名前は……」「ゼロってそのFランクの奴の名前か……?」とザワザワとどよめく中、受付嬢は慌てて書類を準備し始めた。
「え、えーっと……! では、パーティ『ヴォイド・シフル』の結成申請ですね! 手続きを進めさせていただきます!」
受付嬢はペンを走らせながら、確認するようにリアンへ視線を向けた。
「リアン様はすでにソロでCランクをお持ちですが、パーティランクは個人のランクとはまた別物扱いになります。通常はFランクからのスタートとなるのですが……Cランク以上の方が『リーダー』としてご登録される場合、特例としてDランクからのスタートとなりますが、いかがなさいますか?」
Dランクスタート。新人としては破格の優遇措置だ。
受付嬢が「当然そうされますよね」という表情で書類を書き進めようとした――まさにその時だった。
「ん? 違うよ! 受付さん、何言ってるの?」
リアンが不思議そうに首をかしげ、きっぱりと言い放った。
「リーダーはゼロに決まってるじゃん!」
「えっ!?」
「えっ!?」
俺と受付嬢の声が綺麗にハモった。
周囲の冒険者たちからも、一斉に怒号のような突っ込みが飛んでくる。
「おいおいおい! お前、正気かッ!?」
「何言ってんだリアン! お前の方が圧倒的に実力上なんだから、リーダーはお前がやるべきだろ!」
「Fランクの『おやくそく』にリーダーやらせて、Fランクスタートになるんだぞ!?」
あまりの暴論(?)にギルド内が大騒ぎになるが、リアンはまったく意に介さない。
俺の方へくるりと振り返ると、胸の前で可愛らしく人差し指を立て、口元に当てて「メッ!」と唇を尖らせた。
「ダメだよゼロ。もうこれは決定事項なの!」
「いや、決定事項って……リアン、お前がリーダーやった方がランクも上がるし……」
「ダメなものはダメ! ゼロがリーダーじゃなきゃ、私がパーティ組む意味ないんだから!」
譲らない強い眼差し。
そこには、昔から俺を誰よりも買い、誰よりも頼りにしているリアンなりのブレないポリシーと愛(?)があった。
リアンは満足そうに頷くと、呆然としている受付嬢に向かってニシシと笑ってみせた。
「――というわけだから、ゼロをリーダーで登録してね! Fランクスタートでも、ゼロがリーダーならすーぐ上に行っちゃうんだからね!」
「あ、は、はいっ……! か、かしこまりました……!」
受付嬢は半ば勢いに押し切られるようにして、「リーダー:ゼロ」の欄に判を押したのだった。
(……ハァ、いきなりFランクパーティのリーダーかよ)
頭の上の黒猫が「なー」と他人事のように鳴く中、俺は自分の冒険者カードに刻まれた『ヴォイド・シフル/リーダー』の文字を見つめ、深い溜め息をつくのだった。
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