◆第35話:冒険者ギルドと、《剣聖》の威光
「ここが王都の冒険者ギルドだよ!」
リアンが誇らしげに胸を張り、大きな手振りで指差した建造物を見上げ、俺とウーは思わず圧倒されて足を止めた。
「すごい……お城みたいですね……っ」
「ああ、想像以上だな……」
視界に飛び込んできたのは、城壁かと見紛うほど重厚な石造りの巨大な大殿堂だった。
正面の破風には、交差する二本の巨剣と盾を象った黄金のギルド紋章が燦然と輝いている。見上げるような鉄製の大扉からは、外の通りにまで武具の擦れる金属音や荒々しい怒号、そして独特の熱気が漏れ出していた。
リアンが先頭に立ってその重厚な扉を押し開けると、目の前には想像を絶する熱気と喧騒の世界が広がっていた。
天井が高く抜けた広大なホールには、何百人もの冒険者がひしめき合っている。
壁一面にはランクごとに色分けされた無数の依頼書が所狭しと張り出され、中央の掲示板付近では男たちが身を乗り出すようにして依頼を吟味していた。
さらに奥の酒場スペースからは、巨大なジョッキを掲げて大笑いする大柄な男たちや、全身に凄まじい業物を纏った上級冒険者たちの殺気すら混じる熱気が漂ってくる。
その圧倒的な異世界の『冒険者ギルド』のリアルな空気に、ウーは顔をこわばらせ、俺の制服の袖口をキュッと掴んで縮こまった。
「ぜ、ゼロさん……なんだかすごい人たちばかりです……」
「大丈夫だ、ウー。俺がついているからな」
と言いつつ、頭の上に黒猫を乗せた俺自身も、少しばかり気後れしそうになっていた。
だが――俺たちがホールの中央へと踏み出した、まさにその瞬間だった。
雑多な喧騒に包まれていた館内の空気が、まるで波が引くようにピタリと静まり返った。
「……おい、見ろよ。入口に入ってきたあの赤髪の娘……」
「マジかよ、あれってまさか……弱冠十四歳でソロCランクに駆け上がった《剣聖》のリアンか!?」
「なんでこんな真昼間にギルドに……? いや、それより後ろの奴らは誰だ?」
「おいおい見ろよ、頭の上に黒猫乗せた妙な平民のガキと、ボブカットの可愛い女の子を連れてるぞ……?」
荒くれ者たちの鋭い視線が一斉に俺たちへと突き刺さり、ヒソヒソとした囁き声が波紋のように広合っていく。
一触即発の緊張感が漂う中、当のリアンはそんな視線をまったく意に介さず、ニシシと余裕たっぷりの笑顔で振り返った。
「ふふん、ちょっと目立ちすぎちゃったかな! やっぱりCランクになると顔が割れちゃって困るよ~!」
リアンは腰の長剣の柄にポンと手を置き、堂々とした足取りで進み出ると、振り返って指をさした。
「よしっ! ゼロとウーちゃんはあっちの新人受付カウンターで手続きしてきて! 私はあっちの掲示板で迷い猫の依頼が出てないか見てくるから!」
「おう、助かるよ。任せた」
「はいっ、リアン先輩!」
リアンが周囲の冒険者たちを軽やかに押し分け、掲示板エリアへと向かっていくのを見送り、俺とウーは空いている受付カウンターへと足を進めた。
木製のカウンターの奥には、ギルドの制服をぴっちりと着こなした、愛想の良い笑顔を浮かべるお姉さん受付嬢が待っていた。
「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご用件でしょうか? ……ふふ、もしかして新規の冒険者登録ですか?」
「はい、二人分の登録をお願いします」
「かしこまりました! 王都ギルドへようこそ! それではこちらの魔導水晶に順番に手をかざしていただき、お名前と保有スキル、簡単な魔法・戦闘適性の測定を行いますね!」
受付嬢が手際よくカウンターの上に設置した、怪しく蒼く光る透明な水晶玉。
荒くれ者たちの視線を感じながら、俺とウーの冒険者登録手続きが本格的に始まったのだった。
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