◆第29話:修羅場の予感と、予期せぬ笑顔
「……あれ? ゼロ、その子は……?」
リアンの抱きついてくる腕の力が、ぎゅっと強くなる。
いつも通りの無邪気な笑顔のまま、その瞳の奥だけがすーっと冷えていくような気がした。
(やばいやばいやばい……! この空気、完全に修羅場のやつだ……!)
「あ、あの……私、は……」
ウーも『剣聖』と呼ばれる上級生の圧に気圧されつつも、ゼロの隣を譲るまいと必死に足を踏み止めている。
二人の間に走る、目に見えないバチバチとした火花。
俺は額に冷や汗をかきながら、大慌てで両手を振った。
「落ち着けリアン! 彼女はウー。魔法学科の1年生で、同じ平民なんだ!」
「平民の、後輩……?」
「ああ。実は数日前、校舎裏で困ってるところをたまたま助けてさ。それからウーの魔法の癖について相談に乗ってて、放課後に二人で特訓をしてたんだよ!」
出会いの行き違いから、ウーの素晴らしい潜在能力、そして二人で取り組んでいる《並列思考》を使った魔力制御の特訓について、一息に説明した。
説明を聞き終えたリアンは――すっと口を閉じ、黙り込んだ。
「………………」
静寂が支配する夕暮れの並木道。
リアンは腕を組んだまま、じーっとウーの顔を見つめている。
(やば……やっぱり怒ってるのか……? 『私に黙って女の子と二人きりで特訓なんて!』みたいな感じか……!?)
俺の心臓はバックバクで、横のウーも生きた心地がしないといった様子で身を縮めている。
そして、重苦しい沈黙が数秒続いた後――
「――なんだ! そうだったんだーっ!」
ぱあぁぁぁっ!
一瞬にして満開のひまわりのような笑顔が咲き誇った。
「え……?」
「ふえ……?」
呆然とする俺とウーを置き去りにして、リアンはポンと手を叩くと、一歩前へ出てウーの手を両手でぎゅっと握りしめた。
「凄いいい話じゃん! ゼロが後輩の面倒を見てるなんて見直したよ! ウーちゃんって言うんだね? よろしくね、私リアン!」
「えっ……あ、はいっ! リ、リアン先輩……っ!?」
あまりの態度の一変ぶりに、ウーもパチクリと目を丸くして困惑している。
「ゼロの言った通り、あいつ頼りになるでしょ? 昔からお兄ちゃんぶるのが好きなんだから~!」
「おいリアン、変な言い方すんな」
「えへへ、だって本当のことじゃん! ウーちゃん、ゼロに変なことされたらすぐ私に言いなよ? 私が一発ガツンと言ってあげるから!」
「そんな! ゼロさんはとっても優しくて、私に親身になってくれて……っ!」
ウーが慌てて手を振って擁護すると、リアンは「ふふっ」と嬉しそうに胸を張った。
「うんうん、良い子だねウーちゃん! ゼロのこと、よろしくね!」
(……よかった、完全に拍子抜けだ。怒られるどころか一瞬で仲良くなってやがる)
さっきまでの緊張感が嘘のように、一気に打ち解けた二人。
嫉妬の嵐が吹き荒れるかと思いきや、持ち前のカラッとした明るさでウーを受け入れるリアンに、俺はホッと胸を撫でおろしたのだった。
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