◆第28話:図書館の「お約束」と、予期せぬ遭遇
ウーとの特訓を始めてから、数日が経過した。
《並列思考》を活用した魔力制御の練習は着実に実を結び始めており、ウーは小さな火炎球を同時に二つ、狙った場所へ安定して放てるようになっていた。
(成長速度が半端じゃないな……やっぱり才能の塊だ)
今日は特訓を一度休みにして、二人で大図書館へ足を運んでいた。
これまでの練習の振り返りと、さらなる応用魔法に関する頭の整理をするためだ。
天井まで届く巨大な本棚が立ち並ぶ、静寂に包まれた館内。
俺が歴史資料をめくっていると、隣の書架から「う~……っ」と小さく苦しそうな声が聞こえてきた。
覗き込んでみると、ウーが背伸びをし、つま先立ちになりながら高い棚にある本に手を伸ばしていた。
(……きた。これは間違いない、伝説の『届かない本』イベントだ……!)
頭の中でピコンとお約束インジケーターが点灯する。
俺は苦笑しつつ、足音を殺してウーの後ろへと歩み寄った。
「う……あと、ちょっと……っ」
ウーの頭上へと腕を伸ばし、目的の魔導書を指先でヒョイと抜き取る。
「はい、これだろ?」
「ふえっ……!?」
背後から急に影が落ちてきたことに驚いたのか、ウーは小さく跳ねあがり、くるりと振り返った。
その拍子に足がもつれ――俺の胸の中にすっぽりと収まる形になってしまう。
「あ……ゼロ、さん……」
至近距離で重なる視線。
俺の胸に押し当てられたウーの柔らかい体温と、見上げるように俺を見つめる大きな瞳。
ウーの顔が一瞬で林檎のように真っ赤に染まっていく。
「ご、ごめんなさいっ! また私ったらドジして……っ!」
「いや、俺も急に後ろから声をかけて悪かったよ。ほら、探してた本」
「は、はい……ありがとうございます……!」
両手で大事そうに本を受け取るウー。
心なしか、彼女の息が少し荒くなっている気がしたが、俺は気づかないフリをして頭を整理するための読書に戻った。
◇
数時間後。
すっかり頭の整理もつき、満足した俺たちは図書館を後にした。
「ゼロさんのおかげで、並列思考を使った魔力回路の組み換えについて、すごく理解が深まりました!」
「それは良かった。ウーの呑み込みが早いから助かるよ」
夕暮れ時の爽やかな風が吹く並木道を、二人で並んで歩く。
和やかな雰囲気に包まれ、今日も平和に終わるな――そう思った、次の瞬間だった。
「――あ! ゼーーーロっ!」
遠くから、聞き覚えがありすぎる元気な声が響き渡った。
「げっ……」
反射的に体が強張る。
並木道の向こうからパタパタと駆け寄ってきたのは、鮮やかな赤髪をなびかせた少女――リアンだった。
「ふふ、やっぱりゼロだ! 授業が終わったから探してたんだよー!」
無邪気な笑顔で俺の腕に抱きついてくるリアン。
相変わらずの距離感の近さと豊かな胸の感触に焦っていると、リアンは俺の隣に立っていたウーの存在に気づき、ピクッと眉を動かした。
「……あれ? ゼロ、その子は……?」
抱きついていた腕の力が、ほんの少し強くなる。
一方でウーもまた、俺の腕に密着する赤髪の美少女――『剣聖』リアンを見て、どこか怯えたように、でもどこか譲れないような強い視線を向け返していた。
(……待て待て待て、この空気はヤバいんじゃないか……!?)
静かな夕空の下、二人のヒロインの視線がバチバチと交錯した。
【作者からのお願い】
いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます!毎日朝と夜の2回更新を続けていこうと思います。
もし「この先も気になる」「毎日の更新を応援してやるか」と思ってくださったら、画面の一番下にある【☆☆☆☆☆】をタップして星を入れていただけたり、ブックマークを登録していただけると、執筆のモチベーションがめちゃくちゃ上がります!
評価は1項目(面白さ・設定)につき星1〜5個で、いつでも気軽に変更できます。「とりあえず星3つ」でも、作者にとっては飛び上がるほど嬉しいです。これからもよろしくお願いします!




