◆第27話:講義中の密着と、甘いお約束
教官の板書が進む中、講義室にはカリカリとペンを走らせる音だけが響いていた。
(……それにしても、魔導理論の歴史か。前世の歴史の授業を思い出すな)
難解な魔導式の解説が続き、周囲の生徒たちからもちらほらと欠伸が漏れ始めている。
ふと隣に視線をやると、ウーのペンがピタリと止まっていた。
「……ん……っ……」
船を漕ぐように、小さな頭がコクンコクンと揺れている。
連日の練習による疲れと、難解な座学のダブルパンチで限界がきたらしい。
(昨日も遅くまで頑張ってたからな……)
起こすのも忍びなく、俺は静かにノートを取り続けた。
すると――ふっとウーの体が大きく傾いた。
ストン。
「……っ!?」
柔らかな感触と、女の子らしいほのかな甘い香りが一気に鼻腔をくすぐる。
ウーの小さな頭が、俺の右肩にすっぽりと乗っかってきたのだ。
(お、お約束の『居眠りで肩に頭が乗ってくるやつ』きたーーーっ!?)
前世の漫画で幾度となく目にした王道シチュエーション。
しかし、実際に体験すると予想以上の破壊力だ。
右腕を動かそうにも、ウーの柔らかい髪と頬が触れていて完全にロックされている。
「う……ん……ゼロ、さん……」
さらにタチが悪いことに、ウーは夢心地のまま俺の制服の袖をキュッと指先で掴み、すりすりと頬を寄せてきた。
(無意識の破壊力がすごすぎる……! そして右手が動かせなくてノートが取れない……!)
心臓がドクドクと嫌な音を立て始める。
精神年齢は大人のはずなのに、この手の純粋なハプニングにはめっぽう弱い。
と、その時だった。
「――おい、そこの二人。講義中に何をしている」
教官の鋭い視線が、講義室の後方――俺たちに向かって突き刺さった。
「ヒッ!?」
教官の声に跳ね起きるウー。
だが、焦った反動でバランスを崩し――
きゃっ、と小さく悲鳴を上げて俺の膝の上に覆いかぶさるような体勢になってしまった。
「あ……あわわわっ!? ご、ごめんなさいゼロさんっ! 私、私ったら……っ!」
「う、ウー、落ち着け! 教官が見てるから!」
至近距離で重なり合う視線。真っ赤になってパニックを起こすウーと、動揺を必死に隠す俺。
教官は呆れたように大きな溜め息をついた。
「……仲が良いのは結構だが、授業に集中しろ。次は二人とも立たせるぞ」
「「は、はいっ! すみませんでした!」」
頭を下げて謝罪し、慌てて体勢を整える。
周りの生徒たちからクスクスという笑い声や、「なんだあいつら……」という嫉妬混じりの視線が突き刺さるが、もはやそれどころではない。
横を見ると、ウーは耳の先端まで真っ赤に染め上げ、ノートで顔を隠しながら蚊の泣くような声で呟いていた。
「……うぅ……恥ずかしくて、死んじゃいそうです……」
「ま、まあ……寝不足だったんだろ。気にすんなって」
ポンポンと小さく頭を撫でてやると、ウーはノートの陰から上目遣いで俺を見つめ、嬉しそうに、でもやっぱり恥ずかしそうに口元を緩めた。
(ラブコメの主人公って、毎日こんな寿命が縮むような思いをしてるのか……?)
授業終了のチャイムが響くまでの残り三十分。
俺の心拍数は、まったく元に戻りそうになかった。
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