◆第24話:放課後の約束と、静かな能力
翌日の放課後。俺は約束通り、校舎裏の広場でウーと待ち合わせた。
「ゼロさん! お待たせしてしまってごめんなさい……!」
教科書と小さな杖を抱え、走ってきたウーが息を切らせながら頭を下げる。
短い黒髪が揺れ、その顔には昨日までの暗い陰りは見られない。
「大丈夫、俺もいま着いたところだ。じゃあさっそく練習場へ向かおうか」
「はいっ!」
俺たちが向かったのは、実技棟の奥にある第五練習場だ。
ここは主に初心者や個人練習用に開放されている場所で、放課後のこの時間帯なら人もまばらで集中できる。
無人の区画をひとつ確保し、的となる頑丈な木偶の前に立つ。
「まずは、ウーが普段どんな風に魔法を使っているのか見せてもらってもいいか? 一番得意なやつでいいからさ」
「わかりました……! えっと、初歩の火炎魔法をやります」
ウーは深呼吸をひとつすると、杖を固く握りしめ、木偶に向かって構えた。
(……ほう)
構えた瞬間、空気の質が変わった。
ウーの身体からあふれ出す魔力の気配。平民どころか、並の貴族生徒をはるかに凌駕するほどの濃密で澄んだ魔力だ。
「――駆け巡る炎よ、我が糧となりて敵を穿て……《ファイア》!」
ウーが呪文を唱え、杖を突き出す。
その瞬間、杖の先から放たれたのは――ぽつんと灯った、マッチの火ほどの小さな火種だった。
フッと頼りなく揺れた火種は、木偶に届くどころか、空中で虚しく消え去ってしまった。
「……あうぅ……やっぱりダメです……」
ウーは肩を落とし、泣きそうな顔で不発に終わった手元を見つめる。
「やっぱり私、魔力をうまく形にできなくて……いくら練り上げても、放出するときにほとんど雲散しちゃうんです……」
(なるほど……こういうことか)
俺はあごに手を当て、ウーの動作と魔力の動きを冷静に分析する。
魔力自体は凄まじい量がある。だが、それを小さな口から一気に吐き出そうとして詰まっているような状態だ。
例えるなら、消防ホース並みの水圧があるのに、ストローの先から出そうとして爆発的なロスを起こしている。
「ウー、ひとつ試してみてほしいんだけどさ」
「えっ……? はい!」
「さっきは頭の中で『炎の形』をひとつだけイメージしてただろ? 今度は《並列思考》を使って、魔力を二つの流れに分けてから、同時に『小さな火炎球』を二つ作ろうとしてみてくれ」
「ふ、二つ同時に……!? 一つでも上手くいかないのに、ですか……?」
ウーは驚いて目を丸くした。
だが、これこそが彼女の《並列思考》と《魔力操作》を活かす鍵になるはずだった。
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