◆第23話:自己紹介と、小さなお礼
「大丈夫か? 立てるか?」
手を差し伸べると、ウーは少し戸惑ったように瞳を揺らしていたが、小さく頷いてその手を握り返してきた。
華奢で、驚くほど小さな手だった。
「は、はい……ありがとうございます……っ」
立ち上がったウーは、胸元に抱えていた教科書をぎゅっと抱き直し、深々と頭を下げた。
「あの……私を助けてくれて……本当にありがとうございました……!」
「いいって。たまたま通りかかっただけだからさ。それに……まあ、風が味方してくれたみたいだしな」
バケツの水が直撃した貴族女子たちの去り際を思い出し、俺は苦笑いを浮かべた。
ウーはボサボサの黒髪の間から、くりっくりとした大きな瞳で俺を見上げてくる。
「あの……私、ウーっていいます。魔法学科の1年です……平民なので、苗字はありません」
「俺はゼロ。同じ1年のε(イプシロン)クラスだ。俺も平民だよ」
「ゼロさん……」
ウーは俺の名前を噛み締めるように呟くと、少しだけ安心したように表情を緩めた。
「あの……さっきの人たちに言われていたこと、気にすることないぞ。初歩の魔法しか使えないなんて、これから勉強していけばいいだけの話なんだからさ」
気遣うように声をかけると、ウーは少し寂しそうに視線を落とした。
「……ううん、あの人たちの言う通りなんです。私、魔力の量は人並みにあるのに、上手く魔法の形にできなくて……簡単な『ファイア』くらいしか出せないんです」
「魔力はあるのに、うまく発動できない……?」
(……ふむ、何かしら原因がありそうだな)
前世の知識やファンタジーの王道で言えば、こういうタイプは「才能がない」のではなく「制御のやり方が特殊」なだけのケースが多い。
「ちなみに、ウーのスキルって何なんだ?」
「えっと……《並列思考》と《魔力操作》です。戦闘向きの派手なスキルじゃなくて……」
(ちょっと待て……《並列思考》と《魔力操作》の組み合わせ……!?)
俺は心の中で思わずツッコミを入れた。
それ、派手どころか将来的に複数の魔法を同時に高速展開したり、超精密な魔力制御ができるようになる大器晩成型の超・チート構成じゃないか。
今はまだ使いこなせていないだけだ。ノウハウさえ掴めば、とんでもない魔法使い――いや、『賢者』と呼ばれるレベルに化ける可能性を秘めている。
(……なるほどな。これも“お約束”の一環ってわけか)
落ちこぼれ扱いされている少女が、実はとてつもない潜在能力を秘めている。
まさに王道ライトノベルの筆頭のような設定だ。
「ウー、自分のスキルを卑下する必要は全くないぞ。むしろそれ、使い方次第でめちゃくちゃ凄くなる才能だ」
「え……? 私のが……?」
驚いたように目を見開くウー。俺は笑顔で彼女の肩を軽く叩いた。
「ああ。もしよかったら、放課後とかに一緒に練習してみないか? 俺も自分のスキルの検証をしたいし、お互い力になれると思うんだ」
「い、一緒に……!? 私なんかで、いいんですか……!?」
「もちろん。同じ平民同士、助け合っていこうぜ」
そう言うと、ウーの顔がぽっと赤くなった。
「はい……! よろしくお願いします、ゼロさん……!」
ペコリとお辞儀をするウーの表情には、さっきまでの暗さはなく、小さな希望の光が灯っていた。
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