◆第21話:オリエンテーションと、不穏な物音
学院初日。午前中は新入生向けのオリエンテーションとして、校内施設を見て回ることになった。
「広すぎるよ、ゼロ……! 迷子になりそうだ……」
同じ寮で同部屋のアルド、そして同じ新入生の男子たちと一緒に、広大な敷地を移動する。
広大な庭園、巨大な図書館、魔法実験棟など、どこも前世の大学以上の規模と設備だった。
「次は屋外の第一訓練場だ」
案内役の先輩生徒について進むと、掛け声と金属音が響く広い運動場に出た。
上級生たちが剣術の実技授業を行っている最中らしい。
「うわ……すごい迫力……」
「あそこにいるの、2年生の特待生たちじゃないか?」
男子たちが感嘆の声を上げる中、俺の視線はある一人の少女に吸い寄せられた。
鋭い踏み込みから放たれる、疾風のような一閃。
大柄な上級生男子の木剣を、一瞬ではじき飛ばしてみせた。
(……相変わらず容赦ないな、リアン)
一年でさらに研ぎ澄まされた《剣聖》の技量。思わず見惚れていると、対戦を終えたリアンがこちらに気づいた。
「あっ! ゼローーーッ!」
先ほどまでの凛々しい表情が一変、リアンは満面の笑みで大きく手を振ってきた。
「ちょっとリアン! 授業中だぞ!」
教官の呆れた声が響くが、リアンはおかまいなしにパタパタと手を振り続けている。
「ぜ、ゼロ……! 本当に『剣聖』のリアン先輩と知り合いだったんだ……! しかもあんなに嬉しそうに……!」
隣にいたアルドが、目の前で繰り広げられた光景に目を丸くしてガタガタと震えている。
「あいつ、マジで何者だよ……」
「あのリアン先輩が手を振るなんて……」
周囲の男子生徒たちからも、嫉妬と困惑の混ざった視線を向けられる。
(……はいはい、知ってた。いつもの“お約束”だな)
俺は苦笑いを浮かべつつ、軽く手を振り返してその場を後にした。
◇
オリエンテーションの後半、魔法学科の練習棟を通りかかったときだった。
ガタンッ!
校舎裏の陰になった区画から、何かを倒したような荒々しい物音が聞こえてきた。
「ん……?」
「どうしたの、ゼロ?」
「いや、なんか音がしなかったか?」
(……このパターン、前世の漫画で100回くらい読んだぞ)
校舎の裏、人目につかない場所、怪しい物音。
頭の中に“お約束”のインジケーターがピコンと灯る。
(もしかして……!)
「アルド、先に行っててくれ。ちょっと気になる」
「えっ、ゼロ!?」
驚くアルドたちを残し、俺は足音を殺して校舎裏の角へと回り込んだ。
建物の陰を覗き込むと――そこには、数人の貴族風の女子生徒たちが、小柄な少女を囲みたたいていた。
「なによその生意気なツラは! 平民のくせに魔法学科の講義に出るなんて身の程を知りなさい!」
「初歩のファイアしか使えないゴミが、アタシたちと同じ空気を吸わないで頂戴!」
「……っ……ごめんなさい……」
地面に小さく丸まり、教科書を抱きしめて耐えている少女。
ボサボサの短い黒髪、丸まった背中、小柄で頼りなげな背中。
(いじめ……か)
これが――俺とウーの、最悪で“お約束”な出会いだった。
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