第8話 配られた穀物
荷車には、救済用の穀物が積まれていた。
監察官が染物倉庫を封じ、残りの袋も数えた。町に配られた百二十袋と合わせれば、王都から届いた三百袋になる。
ベルントと銀鷺商会の手代は取り調べのために身柄を拘束された。町の配給は臨時に派遣された役人が引き継ぐ。処分が決まるのは、帳簿や証言をさらに調べてからだ。
その日のうちに配給所が開き直された。
私は市場の端に座り、列を見ていた。老女と少年も並んでいる。少年は袋を抱える両腕に力を入れ、帰り道で何度も中を覗こうとして老女にたしなめられた。
やがて老女が私に気づき、頭を下げた。
私は杖から手を離し、軽く頭を下げ返した。
「監察官に、配給の記録を見えるところへ掲示してもらいましょう」
そばに来たセシリアへ言う。
「もう頼みました」
「早いな」
「旦那様を待っていると、帰る時刻になりますので」
彼女の鞄には、北風屋の売上を記した帳簿も入っている。事件の最中も商談を止めていなかったらしい。
監察官はルカにかけられた疑いも調べた。襲われたという者の説明は食い違い、ゲルトの証言とも合わない。告発は取り下げられ、預けた保証金が返された。
「護衛殿の名を傷つけたことも、調査に記録します」
そう告げられたルカは、ようやく肩の力を抜いた。
そのあと、彼は配給所の屋根に寄りかかり、腕を組んだ。
「名乗るのが遅すぎませんか」
「遅かったかもしれん」
「俺なら、最初に名乗ります」
「そうすれば、皆は私を見て、セシリアの帳簿やゲルトの言葉を聞かなかったかもしれない」
「でも、旦那に何かあったら困ります」
ルカの答えは速かった。
私は彼を見上げた。
「そうだな。お前の言うことも覚えておく」
意見は揃わなかった。それでよかった。
宿へ戻ると、膝が痛み、熱も出た。気が張っている間は動けた体が、急に重くなる。
ミラは私を寝台へ座らせ、外套を取り上げた。
「二日休みます」
「一日では」
「三日にしますか」
「二日で頼む」
彼女は薬を用意しながら、呆れたように鼻を鳴らした。
窓の外を荷馬車が通っていく。以前なら、動けないことが怖かっただろう。
今は北風屋の皆が、私のいないところでも仕事をしている。
私は枕に頭を沈め、その音を聞いていた。




