第11話 事件のあとの暮らし
審理のあとも、王都は忙しかった。
商会の帳簿を確かめ、正当な取引の代金を払う。止まった荷を動かし、借りた倉庫を使う者を決める。回収するべき金と、品物を売って受け取った金を分ける。
悪事が明らかになっても、すべての支払いを無かったことにはできない。
セシリアは北風屋の倉庫と商人組合を行き来した。ミラはマリアンネと施療院を訪ね、ルカは荷の護衛に出た。
私は監察局へ追加の質問に答えに行き、午後は休んだ。
休む、と自分で決められたことが、少し不思議だった。
十日ほどして、北方からの商隊が王都へ入った。
薪と乾燥食料、薬草が積まれている。北方の冬支度を減らさずに売れる分を、ユリアンが正式に手配したものだった。
クラウスは到着した荷を確かめ、父へ報告した。マリアンネは施療院へ届く品を見届ける。
私はその横に立っていたが、誰にも指図をしなかった。
「父上」
ユリアンが帳簿を閉じる。
「こちらは、私たちで進めます」
「分かっている」
「本当に?」
「見ていただけだ」
息子は少し笑った。
北風屋も施療院へ薬草を売った。セシリアは値段と数量を確かめ、受領の書面をもらう。
寄付すればよいのではないか、と考えたが、私は言わなかった。店の仕事として正当に品を届け、代金を受け取ることも、長く続けるために必要だった。
夕方、屋敷へ帰る道で、市場の店に灯がともっているのを見た。
薪を買えなかった男の店も開いていた。
彼は私に気づき、少し迷ってから頭を下げる。
私は同じように頭を下げた。
長い話をする必要はなかった。彼には客が来ていた。
それから一月あまり、私たちは王都に留まった。北風屋は商売を続け、監察局には求められたときだけ出向いた。国王による職務の処置と、裁判官による刑の判断は分けられ、被告にも証拠を争う機会が設けられた。
正式な裁きで、ギデオンの公金転用と利益の隠蔽が認められた。財務卿の地位は剥奪され、今後の公職就任も禁じられる。刑は禁錮十二年。不正に得た資産は売却し、被害の回復に充てることになった。王国へ貢献した事実は判決にも記されたが、それによって罪が消えることはなかった。
地方からも、裁きの結果と町の様子を記した報告が届いた。
ベルントは救済穀物の不正な処分を企てた罪と記録の偽装で、オットーは修繕費の転用と虚偽の報告で、それぞれ罷免と禁錮の処分を受けた。不正の利益は回収され、ハルフェンの配給とレナ村の本橋の修繕へ戻される。加担した商会の者にも、その行為に応じた刑が下された。
ハルフェンの知らせには、ゲルトが織物商の倉庫で働き始めたことも添えられていた。娘は回復し、代官所から借りた薬代は、正式に額を確かめたうえで返せる範囲の分割払いになったという。
レナ村では、イーダとハインツが本橋の修繕を一緒に進めている。二人の名が同じ工事の書面に並んだと知って、ルカは何度もその便りを読んだ。
ルーヴェンのジルベルトには、書類の偽造と関税を逃れようとした罪などで禁錮十年が言い渡された。北風屋が余計に支払った保管料や調査中の損失も、裁判で認められた範囲を商会から弁済することになった。
倉庫の火災は、帳簿の整理を命じられた手代が、調査前に不正の記録を焼こうとして起こしたものだった。救出された荷役人の証言と、残った焼却の指示書が一致した。ジルベルトの証拠隠滅の指示も確認され、判決の対象に含まれている。火をつけた手代にも刑が下った。負傷した荷役人の治療費は商会が負担した。
エミールを襲わせたのは、積立金を扱っていた両替商の支配人だった。捕らえた男への支払い記録が残り、残る襲撃者も捕まった。証言を撤回させて調査を止めるためだったという。ギデオンが襲撃そのものを命じた証拠はなく、その罪まで彼へ押しつけることはしなかった。支配人と実行した者たちが、それぞれ処罰された。
エミール自身も虚偽の記録を作った責任を問われた。自発的な資料提出と証言を考慮して刑の執行は猶予されたが、記録官の職には戻れない。彼は監督の下で被害の回復を助ける整理の仕事を続けるという。
私は報告を読んでから、机に置いた。
「これで、終わったのですか」
ルカが聞いた。
「裁きはついた。暮らしを戻す仕事は、これからも続く」
セシリアが新しい帳簿のページを開いた。
「続けられるようにするのが、私たちの仕事ですね」
彼女の筆は、もう止まっていなかった。
新しい財務卿は、王国の支払いを監察局と照合しながら引き継いだ。救済の品を別に処分するには正式な承認が要り、地方へ納める資材は、現場の受領記録も確かめることになった。すべてが一度に正しくなるわけではない。それでも、同じ言い訳だけで隠し続けることは難しくなる。
その晩、私は旅の荷を整え始めた。
今度こそ、誰かが困っているたびに戻らなければならないとは思わなかった。ここには、戻す仕事を引き受ける者たちがいる。




