第12話 王の頼み、隠居人の返事
再び王宮へ招かれたとき、レオナルトは最初から用件を話した。
「正式な顧問として、戻ってはくれぬか」
私は答えず、国王の顔を見た。
目の下に疲れがある。財務の立て直しだけでなく、失った信頼をどう戻すかも考えているのだろう。
「毎日宮廷へ出る必要はない。大きな判断のときだけ、そなたの意見を聞きたい。だが、断ってもよい。これは王命ではない」
それならできるかもしれない。
一瞬、そう思った。
大きな判断は、次の大きな判断を呼ぶ。答えを求められれば調べ、調べれば現場へ行き、困っている者を見れば、その先まで引き受ける。
私は自分を知っている。
「役職は、辞退させてください」
レオナルトは黙った。
私の胸にも痛みがあった。友が困っている。そのことを知りながら、断っている。
「相談のお手紙なら、読みます。私に分かることがあれば、返事も書きましょう」
「返事がないときは?」
「海を見ているか、帳簿係に叱られております」
国王は口元を緩めたが、すぐに真顔へ戻った。
「そなたが役を離れたから、こうして見えたこともあったのだな」
「私だけでは、見つけられませなんだ」
私は答えた。
「旅の者たちに、息子に、孫にも助けられました」
レオナルトは頷いた。
「分かった。友として手紙を書く」
「私も、友として返します」
帰りに、王宮の庭を少し歩いた。
落ち葉の掃かれた道が、冬の日を受けている。かつて何度も通った庭なのに、今日は急いで抜ける必要がなかった。
屋敷へ戻ると、北風屋の皆が次の行き先を相談していた。
ミラは北へ戻る道を避けるよう言い、セシリアは南の市に毛織物の買い手がいると説明する。ルカは南なら冬も少し暖かい、と付け足した。
毛織物は王都で新しく買い付けた品だった。今度は色も織り方も違う。セシリアの帳簿には、仕入れた店と数がきちんと記されている。
「旦那様は、どうなさりたいですか」
セシリアに尋ねられ、私は地図を覗いた。
まだ知らない町が、幾つもある。
「南へ行こう。途中で温かい湯に入れる場所があると、なおいい」
「それは治療にもよいですね」
ミラが初めて、私の旅の希望をすぐに認めた。
出発の日、家族が玄関へ集まった。
リーゼルは地図帳の空いたページを確かめる。
「今度は、お料理の名前だけでなく、絵もお願いします」
「下手だぞ」
「ルカさんに描いてもらってもいいです」
ルカが困った顔をした。
クラウスは彼へ手を差し出す。
「祖父上を頼む」
「守らせてもらえれば」
二人が私を見たので、私は杖を持ち上げた。
「分かっている」
ユリアンは馬車のそばまで来た。
「次の手紙を待っています」
「北方へ送ればよいか」
「ええ。私たちも帰ります。商隊と同じ、安全を確かめた道で」
息子には息子の戻る場所がある。
私は頷き、馬車へ乗った。ルカが手綱を取り、セシリアが旅費の袋を確かめる。ミラは私の膝に毛布を掛けた。
荷台には、売るための品物がある。
懐には、リーゼルの地図帳がある。
そして後ろには、帰りを待つ者たちがいた。
馬車が門を抜ける。
王宮の塔が屋根越しに見えたが、私は南へ続く通りへ目を向けた。
北風屋の次の旅が、始まった。
~おしまい~
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