第9話 証人を守る夜
エミールを監察局の用意した宿へ移す夜、私はルカとともに付き添った。
護衛の兵が四人いる。重要な原本はすでに監察局へ預けられ、エミールが持つのは身の回りの品だけだった。元の宿の周りで不審な者が見つかったため、移動先はごく少数の者にしか知らせていない。
大通りを抜けたところで、荷車が道を塞いでいた。
車輪が溝にはまったように見える。だが、荷を直す男たちは、こちらが近づくと手を止めた。
ルカが私の前へ出る。
「下がってください」
私は杖を握った。昔なら、脇へ回って相手の人数を確かめに行っただろう。
今は一歩下がった。
男が二人、荷車の陰から出てくる。兵が声をかけるより早く、片方がエミールの腕を掴もうとした。
剣の鞘が打ち合う音がした。
ルカは男を退かせ、護衛の兵へエミールを渡す。
「右の入口へ!」
そこはマリアンネが通っている施療院だった。私は扉を叩き、夜番の者に開けてもらう。
「負傷者が出る。奥を空けてほしい」
背後で兵が男を押さえた。逃げた者もいる。
ルカは追わず、エミールが中へ入ったのを確かめた。
護衛の一人が腕を切られていた。施療院から屋敷へ使いを出し、ミラが薬箱を持って駆けつける。
私は器へ水を汲み、彼女に渡した。
男たちが誰に雇われたかは、捕らえた兵が調べる。ここでギデオンの名を叫んでも、証拠にはならない。
エミールは壁際の椅子に座り、震える手を膝に押しつけていた。
「資料は、無事ですか」
彼が聞く。
「資料は預けてある」
私は答えた。
「今夜は、お前が無事でよかった」
ルカがそばへ来た。
「追わなくてよかったですか」
「守る者が残っていた」
彼は頷き、剣を鞘へ納めた。




