第8話 金の行き先
財務局の記録官が、監察局へ証言を申し出た。
エミール・ハーゼという男で、三十代半ばだった。自分の手で処理した支払いの記録を持ち、椅子の端に座っている。
「間違いだと分かったのは、いつですか」
ヴェーラが尋ねた。
「最初は、通常の口座では扱えない資金だと説明されました。業者の支払いを早めるためだと」
彼は紙を一枚出した。
積立金の一部は、確かに物資を買うために使われていた。軍の糧食や、王都へ入る燃料の代金である。
だが、別の金は土地や倉庫の取得へ回っていた。
リーゼルたちの地図に現れた場所も、その中に含まれている。登記を調べると、財務卿に近い者が管理する商会の所有だった。
「王国の予備倉庫を増やすためだと、聞きました」
エミールは続けた。
「しかし、倉庫を貸して得た金は、国庫には入っていません。別の商会へ送られています」
承認の記録に、ギデオンの署名があった。
一枚ではない。支払い先を変え、取得を認め、収益の扱いを指示した記録が重なっている。利益を受け取る商会の出資者には、ギデオン本人の名もあった。
「資金の出どころについて、財務卿は報告を受けていたのですか」
ヴェーラの問いに、エミールは別の束を出した。
地方の資材費や公用物資の取引から、手数料を積み立てるよう求めた通知だった。不当な転用になり得ると記録官が書いた意見に、処理を続けるよう指示した署名がある。
「あなたも処理をした」
ヴェーラが言う。
「はい」
「証言しても、その責任はなくなりません」
エミールは頷いた。
「承知しています」
私は彼の顔を見た。
知らなかった、だけでは済まないことがある。だが、今ここで話すのをやめれば、彼が知っている事実まで消える。
ヴェーラは資料を受け取り、一枚ずつ番号をつけた。
「身辺の保護を用意します。今後の連絡は、財務局を通さず監察局へ」
エミールの肩が、少しだけ下がった。
その日の帰り、私はギデオンの屋敷の前を通った。
窓には灯がともっていた。
国を支えるために集めた金と、自分の力を強めるための金が、彼の中ではどこから分かれなくなったのだろう。




