第6話 広がる不安
監察局が両替商へ資料を求めた頃から、王都の市で値段が上がり始めた。
銀鷺商会へ品物を売る者が、支払いを待たず現金を求める。金を受け取れない店は、次の仕入れを控える。倉庫には品があるのに、市場へ出ないこともあった。
北風屋へ来た商人が、私の顔を見るなり言った。
「前公爵様は、困らんでしょうね」
セシリアの表情が変わる。
私は先に尋ねた。
「何が届かない」
「薪です。商会が代金をまとめて払うことになっていた。今は、それも怪しい」
男は怒りを抑えきれない様子だった。
「不正は止めればいい。だが、冬に品が届かなければ、うちの客はどうするんです」
私は、すぐには答えられなかった。
その晩、マリアンネが施療院の記録を持ち帰った。薬と燃料の納入が遅れ、病室を暖める薪を減らしているという。
「今ある品物と、届くはずだった品物を分けて調べています」
彼女は紙を広げた。
「支払いさえ確認できれば、納める業者もいます。誰が払うのか分からなくなっているのです」
私は、監察局へ行って調査を急がせようと考えた。
その先をマリアンネに読まれる。
「調査を急いでも、今夜の薪は増えません」
私は紙に目を落とした。
「そうだな」
ユリアンが隣で不足する数量を確かめている。
「北方に余裕があるか、調べましょう」
私は口を開きかけ、閉じた。
北方の品を送れと命じるのは、もう私の仕事ではない。
「頼めるか」
ユリアンは頷いた。
「領内の冬支度を損なわない範囲で、です」
その返事を待てたことに、少し安堵した。




