第5話 地方から届く記録
監察局の部屋には、大きな机が三つ並んでいた。
担当の監察官ヴェーラ・クラインは、私たちが座る前に告げた。
「まず、分かっていることと、推測を分けます」
セシリアはすぐに頷いた。
ハルフェン、ローデン子爵領、ルーヴェン。私たちが持ち帰った写しをもとに、正式な記録が各地へ求められている。
届いた資料は、日付と作成者を確かめてから並べられた。
ハルフェンで回収した百八十袋は、売られていない。ヴェーラは最初にそこへ印をつけた。
「売却代金として数えることはできません」
「倉庫から運び出す前に止めた」
私が答える。
「ただし、買い取る予定だった商会から、代官へ渡された手付金の記録があります。こちらは別に調べます」
ローデンの橋では、村の金で買った木材が、商会の渡し場へ回された。修繕に使ったという支出の説明は、現場と合わない。
ルーヴェンでは、銀鷺商会の荷が北風屋名義へ変えられ、関税の不足が隠されようとした。
似た仕組みでも、同じ犯罪として一括りにはできない。セシリアはそれぞれの欄を分け、合法的な取引も書き入れた。
「商会が金を送っただけでは、不正とは言えません」
彼女が言う。
「ええ」
ヴェーラは頷いた。
「何の金を、誰の承認で、どこへ動かしたか。それを確かめます」
十日ほどかけて届いた資料に、同じ両替商の名が現れた。
王都にある店で、商会の支店から送られた金をまとめている。名目は、王国の物資調達を支える積立金だった。
ハルフェンで不正な売買を進めた者の手数料、渡し場の収益、港の取引から集められた金が、合法的な商売の金と混じっている。個々の記録を読まなければ、出どころは分からない。
私はその名を見て、ギデオンの言葉を思い出した。
帳簿どおりにしか動かなければ、届かなかった荷がある。
その荷のために、誰の金が使われたのか。
まだ、そこが見えていなかった。




