第4話 財務卿の言い分
ギデオン・ロイエンタールは、私が王宮から屋敷へ戻った翌日に面会を求めてきた。
濃灰色の上着に、装飾は小さな指輪だけ。背が高く、痩せた男である。話す前に相手の顔を見る癖は、以前から変わらない。
「お身体が戻られたようで、何よりです」
「長く歩くと、治療術師に叱られる」
「旅は、よい療養になりましたか」
「よいことも、面倒なこともあった」
ギデオンは向かいの椅子へ座った。
「商会の不正を認める者は、処罰されるべきです」
彼は最初にそう言った。
「ただし、王国の資金繰り全体まで疑われれば、必要な取引も止まります。噂が先に走ることを、私は案じています」
「私に調査を止めろと?」
「発表を急がないでいただきたい。何が違法で、何が必要な処理だったか、整理する時間が要ります」
もっともな話に聞こえた。
「三年前の冬、北方への支払いが遅れたことを覚えておられますか」
ギデオンが聞く。
「忘れられん」
「あのとき、銀鷺商会を含む業者に支払いを待ってもらいました。国庫から出せる金はなく、それでも物資は必要だった」
彼は机の上に手を置いた。
「帳簿どおりにしか動かなければ、届かなかった荷があります」
私も戦場で、決まりを破らねば人を救えない場面を知っている。その一点では、彼の言葉は軽くなかった。
「だが、ハルフェンで隠された穀物は、民へ渡すはずのものだった」
「地方で起きたことです」
「橋の修繕費もだ」
「それも、調査で明らかになるでしょう」
「私の名で作った保証書は」
ギデオンの指が、わずかに動いた。
「それについては、遺憾に思っています」
彼は、知っていることと知らないことを慎重に分けていた。
私は彼の顔を見た。
「私は、監察官に見たことを話す。止めることも、結論を命じることもせん」
「王国が揺れても、ですか」
「揺れているなら、どこが傷んだか確かめねばならん」
ギデオンはしばらく黙り、立ち上がった。
「国を支える者には、選べない日もあります」
その言葉は、彼が帰ったあとも残った。
私にも、選べないと思い込んでいた日があった。
だからこそ、他人にまでそれを強いることの恐ろしさは分かる。




