第3話 旧友の食卓
王宮から招きが届いたのは、二日後だった。
公の謁見ではなく、夕食への招待である。
それでも上着を選ぶ手は迷った。旅の服で行けば無礼だろう。かつての正装を着れば、戻ってきた臣下に見えるかもしれない。
結局、紋章の少ない濃い上着を選んだ。
レオナルト三世は、小さな食堂で待っていた。金髪に混じる白いものが、以前より目立つ。
「ずいぶん歩いてきたな、アルノルト」
「乗っている時間のほうが長うございました」
「商人になったと聞いた」
「なったつもりでしたが、帳簿係に叱られることのほうが多く」
国王は声を立てて笑った。
しばらく、旅の話をした。海を見たこと、村の橋で茶を配ったこと、売値を勝手に下げるなと何度も言われたこと。
「そなたを叱れる者が三人もいるのか」
「家に帰れば、さらに増えます」
「よいことだ」
レオナルトはそう言って、杯を置いた。
食事が終わりかけてから、港の資料の話になった。
「送ってくれたものは読んだ。ルーヴェンの監察官からも報告が来ている」
国王の声が変わる。
「銀鷺商会の一部に不正があったことは、かなり明らかになった。だが、財務卿まで関わったとするには、調べなければならぬ」
「私も、まだ断定できませぬ」
「ギデオンには功績がある。国庫に金がなかった年、彼が支払いを繰り延べ、商人の信用を借りたから、軍の糧食が届いた」
私にも覚えがある。
北方から何度も催促を送り、それでも届かない金を待った年があった。物資が届いたとき、私は現場のことしか見ていなかった。
「彼を明日にも罷免すれば、支払いを待つ商人が一斉に金を求める。王都の品物まで止まりかねぬ」
「だから調べぬ、というお話ではないのでしょう」
「もちろんだ」
レオナルトは私を見た。
「財務局の外にいる監察官に調べさせる。そなたには、旅で見たことを話してほしい」
私は少し黙った。
王に頼まれると、昔の癖で引き受けそうになる。だが、今夜はその前に聞けた。
「店の仕事と、体調を優先してもよろしいか」
国王は一瞬目を丸くし、それから頷いた。
「ミラ殿に叱られては困るからな」
「陛下も、同じ目に遭うかもしれませぬ」
「ならば会うのは控えよう」
笑ったあと、レオナルトは静かに付け加えた。
「隠居を認めたことを、取り消すつもりはない」
私は頭を下げた。
その言葉を、友として受け取った。




