第2話 家族に聞かせる旅
夕食には、家族が揃った。
ユリアンたちは冬の宮廷行事に合わせて王都に滞在しており、クラウスも北方からの報告を持って、数日前に着いたという。旅立ちを見送ったあと、北方へ戻っていた家族が、またこの屋敷へ集まったのだ。
マリアンネは皆の席を決めると、最初に私へ言った。
「今夜は、審理と帳簿の話を少しお休みにしましょう」
「旅の話の半分は帳簿だぞ」
「残りの半分を伺います」
リーゼルが、待ちかねたように地図帳へ手を伸ばした。
「見てもいいですか」
「そのために持ち帰った」
彼女はページを開き、すぐに声を上げた。
「倉庫の図が最初なのですね」
「その先も見ろ」
「焼き菓子。塩。魚。……お祖父様、食べ物が多いです」
ルカが笑い、セシリアまで口元を押さえた。
私はハルフェンの茶屋と、ルーヴェンの海辺で食べた料理の話をした。どちらも、食べている間は公爵でも商人でもなかった。
リーゼルは海のページで指を止める。
「『波の音は地図に書けない』。これ、好きです」
「実際、書けんからな」
「なら、どう聞こえたか、今度教えてください」
向こうではクラウスが、ルカからレナ村の橋の話を聞いていた。
「祖父上が岸で縄を?」
「はい。かなり強く引いてもらいました」
「自分で橋へ行かなかったのか」
ルカは私をちらりと見た。
「行こうとはしました」
「それでこそ祖父上ですが」
「行かせませんでした」
クラウスは驚き、それから笑った。二人の間に、私を守るという共通の仕事が生まれたらしい。
食事のあと、ユリアンと二人になった。
息子は書類を机に置く。
「銀鷺商会の保証書については、王都の商人組合にも説明しました。公爵家が同意した事実はない、と」
「手を煩わせた」
「偽造が分かったなら、それでよいのです」
「その先にも調べることがある」
「承知しています。ルーヴェンからの報告を読みました」
ユリアンは椅子に座らず、書類の端を揃えた。
「父上が戻られれば、またご自身ですべて引き受けるのではないかと心配していました」
「私には店がある」
「以前は領地がありました。それでも王国のことまで背負われた」
返す言葉がない。
私は椅子へ腰を下ろし、息子にも座るよう促した。
「資料が必要なら頼む。北方の判断は、お前に任せる」
ユリアンが私を見た。
「今度は、その約束も守っていただきます」
「努力する」
息子の眉が動いたので、私は言い直した。
「守る」
ようやくユリアンも座った。




