第1話 商人として帰る王都
王都へ戻る道は、来るときより長く感じられた。
歩みが遅かったわけではない。セシリアが塩の買い手を見つけるたびに荷馬車を止め、私たちは小さな市へ入った。街道から半刻ほど離れた村にも寄った。
公爵だった頃なら、通り過ぎていた場所である。
ある町では、塩を買いに来た店主が、包みを開く前にセシリアへ尋ねた。
「支払いは、その銀鷺商会を通すのかね」
「いいえ。北風屋に直接お支払いください」
「なら買う。あそこに預けた金が、今どうなっているか分からなくてね」
男は代金を数えながら、何度も帳簿を見た。
銀鷺商会ルーヴェン支店の調査は、もう街道沿いへ伝わっていた。荷を届けてもらえなくなった者もいれば、受け取るはずの金を待つ者もいる。
悪事を止めたはずなのに、その周りで別の者が困っている。
帰りの馬車で、私はセシリアに聞いた。
「商会の支払いが止まれば、関係のない店まで困るのか」
「店は、自分が受け取る代金を次の支払いに使います。届かなければ、その先も遅れます」
「全部、現金で持っていればよいのだろうが」
「商売が小さいうちは、それでもできます。大きくなるほど、品物とお金が同時には動きません」
私は荷台の塩を見た。
この塩を買った店も、売って得た金で何かを買う。北風屋の帳簿の外に、幾つもの暮らしが続いているのだ。
王都の門が見えたのは、ルーヴェンを出て七日目だった。
城壁には冬の薄い日が当たり、門前には荷馬車が列を作っている。私は通行状を出そうとして、手を止めた。
前の馬車も待っている。北風屋も、待てばよい。
セシリアが商家の届けを役人へ渡し、ルカが荷台の覆いを開いた。品物を確かめてもらってから、私たちは街へ入った。
最初に向かったのは、公爵家の屋敷ではなかった。
商人組合に倉庫を紹介してもらい、塩と薬草を納める。荷を数え、預かりの書面を受け取るまで、セシリアは一歩も離れない。
すべてが終わってから、私は言った。
「家へ帰ろう」
「旦那の家、ですよね」
ルカが大きな通りを見ている。
「門があって、門番がいて、入るたびに名前を言うような」
「お前たちも入れる」
「それはそうでしょうけど」
屋敷の門に着くと、門番が私を見て背筋を伸ばした。
その声を聞いたのか、玄関からユリアンが出てくる。
「父上」
私は馬車から降り、息子を見た。
旅へ出るときより、少しだけ疲れた顔をしていた。
「戻った」
「見れば分かります」
そう言いながら、ユリアンは私の肘へ手を添えた。
私はその手を振り払わず、杖と息子を頼りに、石段を上った。
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